Very Very
〜another impression〜


──written by わんだsama@Infinite Blue




「ビービ!」

夕食後ラウンジでくつろぐビビに、ナミは後ろから抱きついた。
ビビはちょうどカップを口に運ぼうとしている時だったので、はずみでその中身を溢しそうになった。
一方、うっかりそれを見たサンジは洗い物途中の食器を落としそうになった。
「きゃっ!」
「うわっと!」
ほぼ同時に声を上げる二人にナミはケラケラ笑う。
「やーね。驚くほどの事でないでしょ?」
「ナミさんってば危ないじゃない!」
「それより部屋に来てよ。いいものがあるの」
ビビの手からカップを取り上げテーブルの上に置くと、急かすように彼女の腕を引っ張った。
何事か飲み込めないまま、ビビはナミに連れらて出て行ってしまった。サンジは乾いた笑いをした。
話しかける間もなく二人がいなくなってしまったからだ。
(・・・ま、いいけどね)
洗い物の音がより一層大きくなった。


* * *


「ビビ、見て見てほら」
押しこむようにビビを部屋に入れたナミはデスクの引き出しからとっておきを出した。
昼間買出しの途中でビビの為に買ったプレゼントだ。
花柄模様の包みがかわいらしくてビビはナミに近寄った。
「わあ!どうしたんですか、それ?」
「私からあなたへのプレゼントよ」
「えっ私に?」
「そうよ。さあ開けてみて」
ビビに包みを手渡すと、どきどきしながらビビの様子を見た。
音を立ててビビはゆっくりと包装を解いていき、そして現れた贈り物を目にすると顔を綻ばせた。
ビビを象徴するかのようなデザインをした髪飾り。
「素敵!本当に貰っていいの?」
「ええ。だってその為に買ったのよ?」
贈ったほうも、贈られたほうも、嬉しくて心が温かな気持ちで満たされた。
それは二人にとって新鮮な事だった。ナミには特にだ。今まで奪う事しかなかったから・・・。
「つけてみていい?」
「もちろんよ。なら私がやってあげるわ」
ビビをイスに座らせるとポニーテールのゴムを解き、丁寧に水色の髪を梳かした。
この数年、死線をさまようような所に身を置いてきたとは思えないほど、ビビの髪は流水のように麗しい。 思わずナミは口をかけた。
「あんた、本当にお姫様みたい」
「やだ、ナミさんってば冗談?」
「あ、そういやそうだったわね」
プレゼントの髪飾りをビビにつけてやりながら話した。いつまでもビビがくつくつと笑うので、ビビの頭をこづいた。


やがて。
「はい、出来たわ」
掛け声と共にビビの肩に手を置いた。鏡の中のビビと視線がかち合い、照れ隠しにビビの顔をぎゅーっとはさむ。顔を並ばせて鏡に向かってにやりとした。
「ナミさんひどーい」
「怒らないの。かわいい顔が台無しよ」
「別にかわいくないもん」
「さ、ふててないで。次は洋服選びをしなくちゃいけないんだから」
ビビは首をぶんぶん横に振った。
「い、いいですそんな事!それに夜ですし」
「あら、夜だからやるんでしょう?」
「どういう事ですか?」
「大した意味はないわよ」
クローゼットの扉を開けてビビに似合いそうな服を一つ一つチェックする。
熱心に服選びするするナミを止める事など出来ず、ビビはベッドに転がった。傍らで「これがいいかな?でもこっちのがいいかしら?」という声を耳にしながら目を閉じ、「今日のナミさんはどうしたのかしら」と考える。
何かいい事でもあったのかしら?ナミさんってたまに分からないわ。
程無くナミは自信満々で選び抜いた三着の服を寝ているビビの上に次々並べた。腰に手を置きビビを見据えている。
突然の事にビビは慌てて頭を振り、飛び起きた。信じられないという表情である。
本当に本当なの?
「もう。せっかく梳かしたのに横になるから乱れちゃったじゃない」
「だって冗談かなあ・・・って」
「今日は違うわ。それよりさあ見て。どれがいい?」
実の所、少し面倒だったビビは適当に一つの服を指差した。何となくこれという感じでだ。
しかしその服はナミの一番のお薦めだったらしく、彼女の調子はますます上々になった。
白地に小さな花柄模様のロングスカートのワンピースだった。
「あら、気が合うわね。私もそれが一番かなって思ってたのよ」
にっこりと自分の行為を誇るナミにビビは根負けして服を合わせて鏡の前に立った。
良いとは思ったが、何も今でなくて、明日でもいいではないか。億劫だとナミに告げた。
「分かってないなー。男どもには勿体なくて見せたくないの」
ビビってば鈍感だわ。
「着てみて。お願いv」
「えっえっ??」
素早い手つきでシャツのボタンを外していく、あくまでマイペースなナミに困惑する。
疑問を抱きながらも、のせられて結局ワンピースを着たのだった。
「これでどうかしら?」
「うん、ばっちり!似合うわー・・・ねえ、あんまり似合うからそれもあげるわ」
「・・・でもナミさんだって着るでしょう?」
「いいのいいの。かわいいと思って買ったけど、私ロングはあんまりはかないし」
ナミは既に空色を梳かし始めている。それから綺麗に髪飾りをつけ直すとビビの正面に立って両手でビビの顔をはさんだ。今度はそっと。

「だからその代わり、今夜のビビは私の着せ替え人形ね」






そう、せめて今だけは。
あと少し、一緒にいられる間だけは。
私だけのあなたでいて欲しかった。




けれどその時の私は知らなかったのだ。
あとになってビビへの思いが、こんなにも重く圧し掛かろうとは――――。


























「Infinite Blue」のわんださんから「Very Very 1」の続きを頂きました!
サンジの元からビビを連れ去るナミさんがステキ。そしてマイ・ドリー夢、ビビの髪をナミさんが梳かす!ビビ独り占め状態にはしゃいでるけど「せめて今だけは」と自覚しているところが切ないです。そしてまるで続くような終わり方、気になります。わんださんありがとうございます。