天上の青



 青い空。入道雲。生命をはぐくむ夏。
 季節があるのはすばらしいことだけど、夏の湿気だけはカンベンしてほしいものである。

 遊戯は庭に出て、草むしりにせいを出していた。
「あつ〜」
 いくら刈っても伸びてくる雑草。その生命力のなんてたくましいことか。
『相棒、大丈夫か?』
 オレと変わろうと何度も闇遊戯は言うけれど。
「大丈夫だよ。」
 遊戯は聞き入れない。ただ無心に草をむしるだけ。

「ちょっと休憩、お茶飲む」
 家に入り冷たい麦茶を取ってくる。
『クーラーのあるところに行ったらどうだ?』
「そんなとこ行ったら、出てこれないよ」
 苦笑してコップの麦茶を一気飲みする。
「はぁ〜おいし!」
『しかし、毎日草むしりしても追いつかないな』
 困ったように闇遊戯は庭を見つめる。

「朝顔が咲いてるね」
 庭の一角を指さす。そこには樹の巻き付き、天に蔓を伸ばす青い朝顔があった。樹が青い花を咲かせてるようだった。
『青い花なんてめずらしいな・・・』
 朝顔の咲いてる方に遊戯は向かう。
「お母さんがTVのドラマで見たんだって。『ヘブンリー・ブルー』って名前らしいよ。意味は・・・『天上の青』」
『「天上の青」か・・・きれいな名前だな』
「お母さんも名前に引かれたみたい」
 遊戯が闇遊戯に微笑みかける。
「僕も小学生の夏休みの時育てたんだよ。夏の間の観察日記もつけたんだ。それは宿題だったんだけど」
 遊戯は子供の頃を思い出して言う。
 それは誰にでもある幼いとき記憶。朝顔を育てたこと、ひまわりの種を数えたこと、泳ぎに行ったこと等、遊戯の夏のたくさんの思い出達。
 それが自分にはないのを闇遊戯は残念に思う。
 遊戯が八年かけてパズルを組み立ててた時間。もしかしたら、もっと早くに会えたかも知れない、一緒に居れたかも知れない時間。その間自分は闇の中を彷徨っていたのだろう。
 光を求めて。

「もう一人の僕ともっと早くに会えてたら、もっと楽しかったのにな・・・」
「え?!」
「僕一人よりキミと一緒の方がずっと楽しいもの」
「・・・・・」
決闘デュエルもいいけどさ、もう一人の僕ともっともっと遊びたいよ」
 照れたような遊戯の笑顔に、闇遊戯は泣きそうになる。実体はないと分かっているが遊戯に抱きつく。この嬉しい気持ちを分かってもらいたくて。パズルの中の幻のような自分を認めてくれて。
「ありがとう」
「?」
 突然抱きつかれてびっくりしたけど、遊戯はとても嬉しい気持ちになる。
「でもこれからはずっと一緒に居れるんだがら、いろんな事を一緒にやろうね」
「どんなことを?」
「そーだね・・・朝顔を木にいっぱい咲かせているってのはどう?今年種を取って、来年植えて育てるんだ」
「花の青を空にかえすようだな」
「だって天国の青だから」
 闇しか知らないオレにカラーを世界を教えたのは相棒、お前だ。



来年になったら種を植えよう
一緒に観察日記も付けよう
朝顔を一緒に育てよう

花の青を空にかえすように
愛をお前にかえそう










「天上の青」というのは曽野綾子さんの小説。花言葉は結構まちまち。「愛着の絆」「儚い恋」。

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