「そりゃ悪いって思ってるけど・・・」 玉ねぎの皮を剥き終わった不二はつぶやいた。 「好きで約束破るわけじゃないのにさー」 そうは言っても。大きな溜息がもれるのだった。 帰り道、不二と菊丸は口をきかなかった。 次の休みは一緒に遊ぼうね!とずいぶん前から約束していた。それが不二に用事が出来て、ダメになったのだった。 「ごめんね」 不二も楽しみにしてたし、悪いとも思っている。 だが菊丸は機嫌が悪くなり「・・・わかった」と言うと、プイッと顔を背けてしまった。 帰り道、気まずい空気のままだった。 「まだ、ケンカの方が、マシ、だよ」 手を猫の手にして、玉ねぎを刻み始める。 とん。とん。とん。 キッチンにリズミカルではない音が響いていく。 不二が家に帰っても、今日は誰もいなかった。キッチンにはメモとお金が置かれていた。人の気配のない家で、ひとりキッチンに座っていると、理不尽な腹立たしさとさみしさで、腹が立って、お腹も減ってきた。 自分ひとりだったら・・・ものすんごーく、辛いもの作っても、食べてもいいかもしれない。それはすごくいいアイデアのように思えて、不二はキッチンにある食材を見て回った。 玉ねぎを半分を刻んだところで、目から涙がポロポロ出てきた。腕で拭い、また刻んでいく。 「エージのバカ」 とん。とん。とん。 「ばかばかばか」 とん。とん。とん。 玉ねぎを全部刻み終わったところで、不二はもう大泣きしてるような状態になった。タオルで顔を拭いていたけれど、最後に洗面所に行って顔を冷たい水で洗った。洗面所の鏡に顔と目を真っ赤にして、拗ねたような自分の姿が映っていた。鏡に向かって「いー」としかめた。鏡の中の不二も同じように憮然としていた。 キッチンに戻ると、大量の玉ねぎをフライパンに入れ、しつこくしつこく炒めていく。途中で腕がだるくなってきたほどだ。1時間近く炒めた玉ねぎはあめ色になり、あれほどあった量が小さく縮んでいた。 そこにスープとスパイスと赤唐辛子を効かせた本格派カリーが出来上がった。 さっそくニコニコと不二は食べてみた。ジーンと痺れる辛さにほくほくとなる。体はカッカッとどんどん熱くなっていく。一般人には危険なものだろう・・・。 今までにない自分好みのおいしいカリーにうれしくなりながら、不二は今日の帰り道のことを思い返してみた。 あんな風に口をきいてくれないのは、ずいぶん堪えた。 それならば。 ―――明日、ケンカしよう。 明日の朝練でそうしよう、それならばみんなが仲裁してくれるだろうし、菊丸には大石が諭してくれるだろう。 不二としては早く仲直りがしたいのだ。 そして仲直りのしるしに、今日作った本格派カリーを菊丸に食べてほしいなあ、と思うのだった。
04/09/21 ★ MAGIC CHANNEL / キル
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