31.『 料理 』



「そりゃ悪いって思ってるけど・・・」
 玉ねぎの皮を剥き終わった不二はつぶやいた。
「好きで約束破るわけじゃないのにさー」
 そうは言っても。大きな溜息がもれるのだった。

 帰り道、不二と菊丸は口をきかなかった。
 次の休みは一緒に遊ぼうね!とずいぶん前から約束していた。それが不二に用事が出来て、ダメになったのだった。
「ごめんね」
 不二も楽しみにしてたし、悪いとも思っている。
 だが菊丸は機嫌が悪くなり「・・・わかった」と言うと、プイッと顔を背けてしまった。
 帰り道、気まずい空気のままだった。

「まだ、ケンカの方が、マシ、だよ」
 手を猫の手にして、玉ねぎを刻み始める。

 とん。とん。とん。

 キッチンにリズミカルではない音が響いていく。

 不二が家に帰っても、今日は誰もいなかった。キッチンにはメモとお金が置かれていた。人の気配のない家で、ひとりキッチンに座っていると、理不尽な腹立たしさとさみしさで、腹が立って、お腹も減ってきた。
 自分ひとりだったら・・・ものすんごーく、辛いもの作っても、食べてもいいかもしれない。それはすごくいいアイデアのように思えて、不二はキッチンにある食材を見て回った。

 玉ねぎを半分を刻んだところで、目から涙がポロポロ出てきた。腕で拭い、また刻んでいく。

「エージのバカ」

 とん。とん。とん。

「ばかばかばか」

 とん。とん。とん。

 玉ねぎを全部刻み終わったところで、不二はもう大泣きしてるような状態になった。タオルで顔を拭いていたけれど、最後に洗面所に行って顔を冷たい水で洗った。洗面所の鏡に顔と目を真っ赤にして、拗ねたような自分の姿が映っていた。鏡に向かって「いー」としかめた。鏡の中の不二も同じように憮然としていた。

 キッチンに戻ると、大量の玉ねぎをフライパンに入れ、しつこくしつこく炒めていく。途中で腕がだるくなってきたほどだ。1時間近く炒めた玉ねぎはあめ色になり、あれほどあった量が小さく縮んでいた。
 そこにスープとスパイスと赤唐辛子を効かせた本格派カリーが出来上がった。

 さっそくニコニコと不二は食べてみた。ジーンと痺れる辛さにほくほくとなる。体はカッカッとどんどん熱くなっていく。一般人には危険なものだろう・・・。
 今までにない自分好みのおいしいカリーにうれしくなりながら、不二は今日の帰り道のことを思い返してみた。
 あんな風に口をきいてくれないのは、ずいぶん堪えた。
 それならば。
 ―――明日、ケンカしよう。
 明日の朝練でそうしよう、それならばみんなが仲裁してくれるだろうし、菊丸には大石が諭してくれるだろう。
 不二としては早く仲直りがしたいのだ。
 そして仲直りのしるしに、今日作った本格派カリーを菊丸に食べてほしいなあ、と思うのだった。


04/09/21 ★ MAGIC CHANNEL / キル