大きな部屋の窓辺に真っ白な猫が眠ってます。 真っ白で小さな子猫の名前を『ふじ しゅうすけ』といいます。不二さんちで生まれた子猫です。 他にも兄弟がいたのですが、みんなどこかにもらわれていきました。本当は『しゅうすけ』も誰かにもらわれていくはずだったのですが、体が弱く、何日か病院に入院しました。不二さん家に帰ってくると、母猫は『しゅうすけ』のことをすっかり忘れてしまって、『しゅうすけ』の世話を全然しませんでした。 そんな『しゅうすけ』の世話をしたのが、裕太くんでした。 裕太くんがミルクを飲ませたり、一緒に遊んだり、しつけをしたり、『しゅうすけ』をかわいがりました。 だから『しゅうすけ』は裕太くんが大好きです。大きな手で撫でてもらうと、うっとりします。 でも、裕太くんは忙しくてなかなか家にいません。 『しゅうすけ』はとってもさみしいです。裕太くんが帰ってこないかなー、と最近は窓から外を見るようになりました。 『しゅうすけ』は家猫なのでお外には行けないのです。 お外を見ていると、いろんなものが動いています。 空に小さな蝶がひらひらと舞うのを見て、わけもわからず飛びつこうとして窓に体をぶつけて、痛い思いをしました。それからはこんな失敗はしないぞ!と注意しています。 小さな鳥が不二さん家の庭で地面をつついています。ひょこひょこ動いてる様子に、また飛びつこうとして窓に体をぶつけました。鳥は驚いて逃げてしまいました。 少ししてまた鳥がやって来ました。また窓に体をぶつけたら鳥は逃げてしまうので、『しゅうすけ』はじっとガマンして、鳥の様子を見てました。 すると。 茶色いかたまりが、一瞬にして小鳥を仕留めました。 無事だった鳥達は慌てて空に逃げていきました。 茶色のかたまりは、よく見ると『しゅうすけ』と同じ猫です。茶トラの小さな猫です。自分と同じくらいの子猫が鳥を仕留めたのを見て『しゅうすけ』は胸がドキドキしました。 「すごい!すごい!」 『しゅうすけ』の声で茶トラがこっちを向きました。挑戦的な目で『しゅうすけ』を見ました。しかし家の中にいるのを見て、バカにしたように『しゅうすけ』の前で捕った鳥を食べ出しました。 「食べるの?!」 「・・・当たり前だろ」 「食べてもいい物なの?」 「食ったことないのか?」 「ないよ」 なんにも知らない自分よりも小さな猫に茶トラの猫は呆れました。 「ほら、ちょっとしか残ってないけど、食っていいぜ」 さっきまで食べていた鳥を『しゅうすけ』に差し出しました。 「・・・そっちには行けないの」 『しゅうすけ』は困ったように言いました。透明な窓にカリカリと爪を立てます。 「ねえ、それはおいしいの?」 「・・・ああ、うまいよ。お前はなに食ってんの?」 「僕?僕はねー、裕太くんがくれるもの!」 「ゆうた?」 「うん、裕太くん!」 『しゅうすけ』は幸せそうに裕太くんの名前を呼びます。 茶トラの猫は少し不機嫌になりました。 茶トラは野良猫です。でも一度は人に飼われたことがあるのですが、また捨てられて、人間不信なのです。 「裕太のくれるものより、こっちの方が絶対おいしいから!」 怒ったように言われて『しゅうすけ』は困ってしまいました。 「キミも裕太くんの出してくれるもの食べれたらいいのに・・・」 「いらねーよ。お前、名前なんていうんだ?」 「僕は『ふじ しゅうすけ』だよ。キミは?」 「俺は『エージ』。『しゅうすけ』、今度もっとうまいもん持ってくるから、今度は食えよ!」 ビシッと前足を『しゅうすけ』の方に向けて指すと、『エージ』はどこかに行ってしまいました。 まだ胸がドキドキします。 目の前には動かない鳥だけが残ってるだけです。動かない鳥より『エージ』が目の前にいてくれたらいいのに、と思いました。『しゅうすけ』は『エージ』の行った方向を窓に顔をくっつけてずっと見ているのでした。 大好きな裕太くんが帰ったのにも気付かないほどに。
04/09/21 ★ MAGIC CHANNEL / キル
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