青い空。
 あまりに天気が良くて邑姜は昼寝の時間を抜け出して草原に遊びに出た。といっても周りには誰もいないし、羊たちも気持ちよさげに寝ている。
 邑姜を引き取った老子は寝てばかりだし、まだ幼い邑姜には手伝える仕事はなかった。

 ただ草原を一人歩くだけだったが、小さな冒険でありいろんなモノの発見だった。
 邑姜の目指していたのは大きな岩のあるところ。そこは日当たりがよく、一度そこで昼寝をしてみたいと思っていた場所だった。





* 申公豹が仙人にならない理由。 *






 やっと目的の岩に着いた邑姜だが、そこには先客がいた。大きな人形がその岩に腰掛けていたのだった。
 不審がる邑姜だったが、老子関係なら何でもありうるように思えてひとまず観察してみることにした。
 しかしその人形はただ風に吹かれて気持ちよさそうにしているだけだった。

『本当は私がそこで昼寝するはずだったのに!』
 邑姜としてはさっさとその人形をどかしてその岩に行きたかったが、人形の邪魔はしたくなかった。それにこんなきれいな人形は見たことがなかった。姜族の村に来て「キレイだ」「肌が違う」と言われても、どう違うかわからなかったが今ならわかる。
 風に吹かれるたびにゆれる銀の髪はサラサラしていたし、肌はまるで陶器のように真っ白。奇妙な服を着ているけどこの人形なら何を着ていてもいいような気がした。
『老子の人形だったら、奪ってしまおう!』とよからぬ事も考えた。

 邑姜はそっと人形の方に近寄っていった。その頬は柔らかいだろうか、と人形の頬をつねろうとした時・・・・・。





 人形がこっちを向いたのだ!





「きゃぁーーー!!」
 邑姜は思わず大声を上げた。すると岩の影から白い大きなネコが現れた!

「・・・・・・・・・・!!!」
 今度は声も出なかった。ただビックリして『食べられたらどうしよう』と思いながら気を失ってしまった。

 気が付くと・・・・・
 大きな岩に人形に膝枕されて眠ってた様だった。
「大丈夫ですか?」
 気遣わしげに人形は微笑みかけた。笑うと今まで人形だと思ったのがウソに思えてくる。優しい表情だ。そう思うと膝枕されてるのが気恥ずかしくなって起きあがる。でも本当はそのまま下からその表情を見ていたかったけど。
「さっきは驚かしたようですね。でも黒点虎もビックリしたんですよ」
「こくてんこって・・・さっきの大きなネコ?」
「ネコじゃないよ!」
 目の前に大きな黒点虎が邑姜の前に顔を出す。また気を失うんじゃないかと申公豹は心配したが、邑姜は
「ごめんね、さっきはびっくりしたの」
 と黒点虎の額を撫でた。黒点虎は少しびっくりしたが、ペロッと邑姜を舐めた。

「あの、老子のにん・・・お客様ですか?」
 それ以外になかった。あとは姜族のものだけだから。こんな奇妙な人は老子の知り合い以外ない!と邑姜は見抜いた。

「ええ。でもあいかわらず寝てるみたいですね」
 とクスクス笑った。その表情はとてもやわらかく、老子を昔から知ってるようだった。
「老子って昔からああなんですか?」
 ずっと不安だったことを聞いてみる。
「ええ、そうですよ」
「・・・・・・」
 やっぱりそうだったのだ。ずっとずっとずっとずっと寝てるし、起きた姿は一度しか見てない。(邑姜を引き取ったときのみ)
「あなたも老子に育てられたの?」
 もしかしたら先に育てられた自分の義兄かもしれない。それならこの服もその化粧も納得がいく。老子の趣味?

「いいえ、私は老子の弟子(?)の申公豹と言います」
「弟子!?な、なんの?」
「老子は仙人なんですよ」
 ・・・・・・!!!
 それで納得した。やっぱりなんか違う人だったのだ。

「するとあなたも仙人なの?」
「いいえ、私は道士です」
 道士とはなんだろう?
「仙人にはならないの?」
「ええ」
 と申公豹は微笑んだ。その笑みを見て邑姜はまた納得した。





「そーね。
 仙人になると老子みたいになるんじゃ、やめた方がいいわ」





 邑姜が申公豹にそう言った。
 すると申公豹はびっくりした顔をした後、大笑いしだした。黒点虎も笑ってる。それはそれは世にも珍しいことだった。
 邑姜は何がおかしいのかわからず、『何か変なこと言ったかしら?』と思案顔なる。

 ―――遠くで老子はみんなの会話を聞いていて、スネていた・・・。




 その大笑いしてた道士とネコ(?)が最強の道士と最強の霊獣で、老子が三大仙人の一人と邑姜が知るのはずっと後のことである・・・・・・。


01/02/08 ★ MAGIC CHANNEL / キル