* うみへ *







「さむい・・・」
 と思わず最強の道士はつぶやいた。

 昨日、封神計画を自己プロデュースした男は「海に行こう!」と言いだした。
 太公望は酔っぱらうと申公豹に子供のようにだだをこねた。
 実は寒いのが嫌いな申公豹はイヤな顔をして
「ひとりで行けばいいでしょう」
 とさんざん嫌がったが、だだっこで甘えた酔っぱらいはしつこくしつこくねだった。
 その後ろで黒点虎と王天くんはいつものことにため息を付く。

 そして海にいるふたり。
 申公豹はたたずみ白い息を吐き、太公望は寄せては返す波をギリギリまで待って逃げている。
 太公望は海と遊ぶのに飽きたのか、今度は砂で遊びだした。手袋を取り砂をかき集めて山を作ってる。
 その顔は真剣で子供のように見える。

 太公望がふと申公豹を見るとかの人は海を見ていた。冬の空気冷たく、人を頼りなげにみせる。
 申公豹がこのまま透けてしまうのではないかと思った。それぐらい白くはかなげに見える。
 不安が不安を呼び、なぜ自分は申公豹を海に連れてきたのかと愚かに思う。
 急に砂山を作るのをやめた太公望に申公豹は近づいてきた。太公望の砂で汚れた手を取り
「こんなに冷たくなってますよ」
 と微笑んだ。
 この笑みを見て太公望は泣きたくなる。そして思う。これが幸せすぎて怖いと言うことか・・・と。
 自分の望んだものを手に入れるために悪行の数々をおこした妲己。
 多分自分も「申公豹」を手に入れす為なら何でもしてしまうかもしれない・・・
 太公望は申公豹の手を握り返し申公豹を抱きしめた。
「おやおや、こんなに冷たくなって寒くなかったんですか?」
 とあきれて申公豹は言うが抱きしめられたことを嫌がってない。ただくすくす笑うだけ。
 この暖かさを自分はやっと得たのだと思うと太公望の胸のあたりが暖かくなる。



これが愛というものか恋というものかは、知らないけれど・・・


00/11/19 ★ MAGIC CHANNEL / キル