〜 温泉に行こう! 〜







「ははははははーーーーーー!」

 高らかに大笑いする太公望と美人ちゃんがやってきたのはなぜか日本旅館。
 なぜか二人して旅行である。いや太公望の画策が見え隠れするが・・・
 常日頃から「食事がおいしい」「景色がよい」「温泉は冷え性に効く(ボカッ)」「いー所がある」等色々言っていたのである。

「正義は勝つ!」
 太公望はVサイン。どんな正義?



 落ち着いたたたずまいの旅館の廊下を特殊なデザインの服を着た人が2人が歩いている。不思議な光景だが旅館の人はプロだから何も言わない。
「こちらにどうぞ」
 と案内された部屋は古いなかにも何か懐かしさがある日本間。部屋は暖められ気持ちがいい。霊もいない。窓から見える雪景色。
「寒かったでしょう」
 女将はお茶を入れてくれる。まさに至れり尽くせり。
 太公望は周りをきょろきょろとものめずらしそうに見て回る。申公豹はおいしくお茶を頂いてる。



「どーだ、来てよかったじゃろ」
 太公望はこたつに丸まっている申公豹に聞いた。
「・・・・・別に寒いところでなくってもよかったんじゃないですか?」
「何を言う、寒いだろうと思って温泉に来たのだろ!」
「・・・・・わざわざ寒いとこで温泉もないでしょう」
「何を言う!冬にこたつでアイスクリームを食べる幸せがあるように、温泉も雪を愛でてこそしゃーわせ、というものじゃ!」
「・・・・・そんなもんですか?」
「そんなもんだ!」キッパリ!
 申公豹は胡散臭そうに太公望を見る。が、ため息ひとつ、来てしまったものは仕方ないとこたつにますますまるくなっていく。
 カバンの中から小さくなってる黒点虎も、本当の猫のように申公豹の膝にのりまるくなる。
「そんなに寒いならさっそく温泉にいこう!」
 うきうきと嬉しそうに申公豹を誘うが、イヤイヤと首を振る。
「もう少ししたら行きますから、先に行ってらっしゃい」
 と促され、「じゃぁ後でだぞ!」としぶしぶ部屋から出ていった。



 大入浴場に行ったに行った太公望。
ちょうど人のいない時間だったので、一人岩風呂で泳いでる。大きな湯殿はガラス張りで外の雪景色が美しい。
「う〜む。一緒に入りたかったな〜」
 と、足をばたばたさせる。大人げない。
 もし一緒だったら・・・・・





 申公豹の白い肌が温泉に入ってあったまり、ほんにり赤く染まっていく・・・



 がんがんがん!
 太公望は思わず自分の描いた妄想に、岩風呂の岩に頭を打ち付け、少し正気に戻る。



「連れてくてくれてありがとうございます」
 にっこり笑う申公豹。



 がんがんがん!
「そぅなったら今夜は寝かせないぞ!」
 とガッツポーズ。まるでオヤジである・・。・
 ・・・でも大浴場に申公豹が来たら、その裸体を他の人も見てしまう!!
「それは許さん!!」
 そうしない為には、一部屋にひとつついている個人用露天風呂に二人で入る。



 二人で露天風呂。誰にも邪魔されず。ふたりっきり。



 がんがんがん!

 大浴場からガンガン音がするので、不思議に思って中に入った従業員さんは驚いたという。
 湯は赤く染まり、血を流しながら湯船に浮かんでいる人を見てしまったから。
「最初は殺人事件かと思いました」





 そのころ、申公豹は・・・
 体も少し温まったので大浴場に向かいだした。
「ところで大浴場はどこなんでしょう?」
 近くを通りかかった仲居さんに聞いてみた。
「それはこちらです」と案内される。
「うちは色々な湯が楽しめますよ。お湯はそのまま飲んでも美容にいいですからね。特に女性の方に人気なんです。」
 そういって、「女湯」の方に案内された申公豹だった。
「えっ・・・・・」
 入り口で固まってる申公豹を尻目に仲居さんは笑顔で「さぁ、どうぞ」と中にはいるのを待っている。
「えっ・・・・・・・・・・・」
 仲居さんの申公豹を女と疑わない純粋な視線に申公豹はますます固まってしまった。
「・・・・・・・し、失礼します!」
 最強の道士が逃げるのは、もしかしたら初めてかもしれない。



 思わず走って逃げだしだ申公豹はなんとか部屋に帰り着いた。
「太公望のせいで〜〜〜」
 少し涙目の申公豹だったが、部屋には頭に包帯を巻きつけぐったりした太公望が横たわっていた。太公望の姿を見た申公豹は思わずかけより胸ぐらを持ち太公望の上半身を持ち上げた。
「太公望!」
「なんじゃ、一体?」
 至近距離に持ち上げられ、真剣な表情の申公豹にさっきの妄想があるのでどぎまぎの太公望であった。



「正直に答えて下さい。
 ・・・・・・・・・・・私は、”女”に見えますか?!」



「はぁ?」
「はっきり言ってください!見えるんですか?」
 普段の申公豹とはうってかわって、なかなか興奮している様子。心なしか涙目にも見える。
「五千年生きてきて、こんなこと初めてですよ!!」
 多分仙界ではおそれ多くて言われたことがなかったのだろう。申公豹は知らないだろうが影では色々言われてるのだ・・・。
「どうなんです?」
 ますます顔が接近し、綺麗な顔がますます近づいて来たので思わず、ちゅっとキスをした。してしまってからなぜか照れる太公望。
「・・・・・な、な、何するんですかーーーーー!!!」
 顔を真っ赤にした申公豹は太公望の頭に痛恨の一撃。

 ぼかっ!!

 ただでさえ、血の気を失っている太公望はあっという間にノックアウト、気を失った。顔を真っ赤にした申公豹は一言。



「もう知りません!!」


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