「師叔、夏風邪はバカがひくモンですよ」 楊はあきれたように、寝込んでる太公望に言った。 「バカモン!すきでこうなったわけじゃないわい!!」 それというのもお前らがワシの言うと通り動かないから・・・ゲホゲホと文句を言うが、ただでさえ軍師らしくなく、その上風邪で寝込んでるので迫力の「は」の字もない太公望。ほんとに主人公? 「とにかく、今日は僕が『軍師代行』で行きますから、師叔はゆっくり!休んで下さいね」 『軍師代行』を強調する楊。 「やることはたくさんあるだろうが。薬を飲んだらわしもいくぞ」 そう。 こんな熱を出したときだけは、動こうとするのだ。この男は。 「・・・・・寝ててください。普段が普段なだけに、ホントにそんなこと言うなんて、ホントに熱が出てるんですよ」 あきれ顔で楊は高らかに宝貝三尖刀を太公望に見せつけ、笑顔で脅しをかける。 「今日、ちゃんと寝とかないと、熱下がってからの仕事を二倍にしますからね」 ニッコリ笑うと今度こそ部屋を出ていった。 楊は仕事に戻り、他の者も自分たちの仕事で忙しそうに動く音がする。 こんな寝込んだ時には、休息よりそばに人がいてもらいたいもんだがのぅと心の中でつぶやく太公望。 普段なにげにブラブラしてるが、そのブラブラには理由がある。しかし何もせずただボーと寝てるのは、太公望には苦痛だった。 気が滅入ってきて布団を頭からかぶって、力一杯目を閉じて寝る体制に入る。こんな時は寝るに限る、そうあるかのように。 こんな時はヤな事を思い出すんじゃよな・・・ 太公望は暗闇の中、立っていた。目覚めると、目から涙を流していた。 「・・・・・・・泣いてるんですか?」 「別に泣いてなど・・・・ってし、し、 しん、申公豹!!! な、な、なんでお主が、ここにいるんじゃ!???」 申公豹は太公望の寝てる布団の脇にちょこんと腰を下ろし、わたわた慌てている太公望を眺めてる。 太公望は悪夢の次にパニックを起こして、なかなか元に戻れない。 申公豹は手袋を外し顔を太公望に寄せる。 「落ち着きなさい」 そういうと起きあがった太公望の額に手をかざした。 「まだ熱はあるようですね」 「な、なんで知ってる?」 まったくもって愚問である。最強の道士の横には最強の霊獣がいるのである。 その上至近距離で申公豹の顔を見たことで熱も上がる上がる。 「お見舞いですよ」 そう言うと桃の缶詰を取り出した。 「カンヅメ?仙桃じゃなくて桃の缶詰?」 「風邪のお見舞いには桃缶、普通のお見舞いにはメロンっていうでしょう」 にこやかに答える申公豹だが、人よりは長く生きてるハズの太公望には初耳だった。 「・・・そうなのか?」 「そうなんです」 あまりに自信たっぷりに押されて質問できない。 いつの間にかガラスの器に入った桃のシロップ漬けを渡される。 「さあ、どうぞ」 「・・・・いただきます・・・・・」 一口ぱくっと食べてみると、シロップの甘さが口に広がる。 「・・・・・・・・・あまい」 「当たり前でしょう」 「お主も食べるか?」 そういうとフォークに桃を一切れさし、申公豹に差し出す。 「ほれ、アーン」 太公望としては食べないだろうと思ってふざけて言ったのだが、申公豹は あ−ん と食べちゃったのだ! 「おいし。久しぶりですよ、食べたのは」 もぐもぐおいしそうに食べる申公豹。 しかし太公望は固まっている。こんなラブラブなこと申公豹としたことがなく、免疫がなくて固まってしまったのだ! 「そうだ!太公望、あ−ん」 「へ?」 「口上げて!」 今度は食べさせてもらえるのか?!こんなラブラブ、ああ、神様ありがとう! パク 「・・・・・・・・・・にがっ!!!!!何じゃこりゃ!!!」 今までの太申モ−ドに口の中の甘さが吹っ飛ぶ苦さが太公望を襲う! 「薬ですよ」 「クスリ??」 「夏風邪をひいたあなたにお見舞い第二段」 現実はそんなに甘くなかった・・・(そりゃそうだ) 「にがい・・・」 「その為の桃でしょう、さ、食べなさいな」 太公望は泣きながら桃を食べ出す。 「早く元気になりなさい、そして私を楽しませて下さい」 太公望の顔を見ながら、にっこり微笑む申公豹。その笑顔は大胆不敵。 「・・・・・これって『敵に塩を送る』ってことか?」 「塩?『傷口に塩』じゃなくて?」 「なんか違うぞ」 「そうですか?」 「そうじゃ!!」 クスッと笑うと申公豹は立ち上がる。 「長い間生きてると、私を楽しませることは少ないんですよ。 あなたには、早く元気になってもらわないと寂しいじゃないですか」 申公豹の微笑みに思わず太公望は申公豹の手を取る。 「・・・知っておるか?ウサギは寂しすぎると死んでしまうんじゃぞ」 「知ってますよ」 「・・・・・寂しくなったら、 いつでも・・・待ってるから」 さっき見た夢がよぎる。あれは予感だったのか? 不老不死な仙人道士だから同じ時間、同じ世界を見れる。 夜空の星も一つだけなら寂しいだろう。しかし遠く離れていても他に輝く星々があるのだ。 「・・・・・寂しくなったら、ね」 笑みを浮かべ、太公望の手を放れ、申公豹は行ってしまった。 まるで空気のような存在。 そこに桃の缶詰がなければ、まるでそれはなかったことのように感じる。
星はつかめない。
でもその輝きはきっとここに・・・・・
01/06/30 ★ MAGIC CHANNEL / キル
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