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 「大佐に手紙を書いてもいいですか?」
 私より大きな鎧から、かわいらしいボーイソプラノが聞こえるのには実はまだ慣れない。
 「私に?」
 「はい」
 「かまわないが・・・なぜ私に?」
 「大佐は同じ錬金術師だから」
 「―――兄じゃあ駄目なのかね」
 「・・・はい」
 この鎧の中は空っぽだ。だが国家錬金術師となった兄と同じくらい優秀な錬金術師でもあるのを知っている。
 「ならば。手紙は軍でなく家に送ってくれたまえ。軍だと電話の盗聴、手紙の開封、何でもありなんでね」
 「・・・軍って、変なとこですね」
 不思議そうに首をかしげたのが、妙にかわいく見え、笑ってしまった。



 疲れた体を引きずって家に帰ってくると、手紙が届いていた。
 薄いブルーの封筒。ブルーのインク。それを見て溜息が出る。アルフォンス・エルリックからの手紙。ブルーになる私、だ。

 あれからアルフォンス君からたまに手紙が届く。
 兄のような悪筆でもなく、丁寧に書かれ、すぐに論文に出せそうなくらいの出来だ。
 アルフォンス君なりの人体錬成論。
 同じ錬金術師として研究は大事だし、人の研究というのも興味深い物だ。例えそれが人体錬成でも。
 エドワード・エルリックが天才というなら、弟も天才域にいるぞ。
 なのに弟は兄のサポートに回っている。天才によりよい環境を。兄を助け、兄の世話をし、共に旅を続け、兄のため兄のため兄のため・・・すべては兄のために。そう望んだのは一体どっちだ?
 兄が体を取り戻してくれると信じているからか、自分の人体錬成論を出さない。それとも兄の人体錬成論が『正しい』と思うからか。あれでも天才だからな。
 自分の体を、兄の手足を取り戻す人体錬成論。
 こうやってあふれてくる理論を止められるものか。例えあの兄でも無理だ。思考を閉じたのなら、それこそ弟は『鎧』になるのだからな。

 そうして書かれたアルフォンス君の手紙は、言うなれば『ゲロ』だ。

 兄のために生きる弟の、どうしようもない、『生きる』ために吐き出されたものではないかと思うのだ。
 鎧に定着した魂に、昼も夜もない。食うことも疲れることも眠ることもない体。それでも『生きる』ために。
 もっと上手に吐き出させることも出来ると思う。それが大人の役目だ。
 だがあの兄が許さないだろう。

 青い夜。
 青い手紙。
 かわいそうなアルフォンス・エルリック。

 今日も何処かで私に手紙を書いてるかも知れない。
 ―――生きるために。


04/06/22 ★ MAGIC CHANNEL / キル