『 必ず 強くなる 』
 病院のベットで虎吉に自分に言ったことで、桜庭春人にとってなにかが吹っ切れた。



光の射す方へ



 今日は目覚まし時計よりも早くに目が覚めた。退院して学校に一日学校に居られる日。当たり前のことに桜庭は妙に緊張した。
 最近仕事でなかなか学校にいられなかったし、部活にも参加できないでいた。そして春大会王城と泥門の試合での怪我だ。朝の静けさの中の溜息は大きく聞こえた。

 仕事もアメフトもすぐに完全復帰できないから、今のうちに仕事を減らしてもらうよう事務所にお願いした。学校に行く時間を部活する時間を増やしたいと。
 慌てたスタッフが病院に来て、いろいろと話し合った。
 今が売り出し時、アメフトを辞めて仕事に取り組もう、チャンス・・・桜部への商品価値はまだまだ高い。スタッフも必死だ。
 でも今のままじゃあ、何もかも駄目になるのがわかるから。
「しばらくの間」。
 三年生の部活動引退までの間だと桜庭は思った。これが今の自分の立ってる場所。

 親を起こさないように静かに台所に朝食の支度に向かう。といっても冷蔵庫から牛乳を出して、パンをトースターに入れるだけなのだが。玄関に向かい朝刊を取ろうとするといきなり大きな音が部屋中に響いた。

 ジリジリジリー!

 スイッチを止めてなかった目覚まし時計が自己主張するように鳴っていた。
 桜庭は慌てて部屋に戻り、スイッチを止めた。ドタバタとしたせいで部屋に雑然と積んであったアメフト雑誌他が倒れていった。
 静けさを破ったことに少し呆然とし、溜息を付くと共に笑いがこみ上げてきた。

「目が覚めたよ」

 さっきまでのまた落ち込みそうな雰囲気が吹き飛んでいた。
 久しぶりに行く学校は勉強が進んでいるだろう、課題も溜まっているだろう、入院してたので体力も落ちている。医者からもまだ運動は無理だと言われてる。
 でも学校に行きたかった。フィールドが恋しかった。
 まだ部活が始まるにしても早い時間だった。パンだけでは物足りない。まだ部活に参加できなくても学校に行くために体力が必要なんだ、と冷蔵庫を見るが、残念ながらすぐ食べれるものはなかった。コンビニによっておにぎりを買おうと桜庭は早めに家を出た。


04/06/08 ★ MAGIC CHANNEL / キル