BURN




 グランドは大変な熱気だった。
 泥門デビルバッツ対王城ホワイトナイツ。
 秋季大会決勝クラスの戦いが泥門のグランドで行われていた。

 高いやぐらの上で雪光はビデオを取っている。
 姉崎が前半終了でベンチに戻って来た選手の世話を甲斐甲斐しくしている。
 試合は王者王城が強さを発揮し、泥門は押され気味だった。この試合は、2年生が全国大会決勝《クリスマスボウル》に行ける最後のチャンス。両チーム、試合にも熱が入る。
 アイシールド越しにセナは王城ベンチの方を見た。白いユニホーム、その中にいる背番号40番。弾丸のように目の前に来るスピード。行く手を阻むスピアタックルを何度もくらい、脇腹が痛んだ。
「進さん、また強くなってる・・・」
「そんなこと言ってどうるんだよっ!」
 苛ついてる十文字がセナに突っかかった。セナは脇腹を撫でていた手を慌てて振った。
「ごめん、でもホント強くて」
 ―――尊敬と憧憬と羨望と。
「弱音かよ」
「違うよ!」
 ―――目が離せない。
 セナの強きの言い返しに十文字はだまり、ライン組が座り込んでる所へ向かう時・・・
「次は抜く」
 聞こえた言葉は力強かった。

 「みんな、大丈夫ー?」
 栗田がタオルを渡したり、スポーツドリンクを渡したり、テーピングの様子を見たりライン組の世話をしていた。一通り終えると、大きな団扇で風を送る。
「はあ〜気持ちいー」
「サイコー」
「フッー!」
 黒木、戸叶、小結が送られる風をうれしそうに受けていた。栗田の前にいると子犬のようだなあと十文字は思ったが、それは自分も入るのかとは考えていない。
 こっちに来たのに気付いた栗田が十文字にも風を送る。
「あ、りがと・・・・ございます」
 まだ不器用にしか礼を返せないでいる。
「ちきしょー、王城、強ぇーな」
「フッー!」
「ホワイトナイツのディフェンスは多分日本一だからね」
「日本一かよ」
「くそーっ」
「でもうちも強い」
 ラインマンの視線が栗田に集まる。栗田はニコニコと笑っている。
「負けないよ」
 いつものしあわせそうな顔で言いきった。
 ムフーッン!と一足先にやる気を出した小結の頭を、ねえーと栗田は撫でた。小結は師匠に撫でられてうれしそうだ。
 ―――うらやましくなんかないぞ。
「ぜってー勝ってやる!」
 一歩出遅れたが、やる気の出たハァハァ三兄弟が唸った。

 少し離れた日陰でモン太は、新しく入った新人を、慰めていた。
「後半、やりかえせばいいから」
「はははい」
「大丈夫だから」
「は、は、はい」
「・・・俺が信用出来ないのかよ?」
「そそそーじゃありませんっ!せっかくのレギュラー入りなのに」
 泥門デビルバッツはまだまだまだ部員不足だったりするのだが。
「せっかくの『大役』なのに、俺、ちゃんとプレーできてなくて・・・」
「・・・勝てばいいんだよ」
「えっ?」
「勝てば、チャラだ」
 大きく目を見開いてモン太を見た後、新人は大きく頷いた。
 その様子をヒル魔はベンチから見ていた。

 後半戦が始まる。各自、へばっていた顔が次第に引き締まっていく。
 そんな中、瀧だけはサラッと髪を流しヘルメットをかぶった。
「がんばってー!」
 小さなチアリーダー鈴音が飛び跳ねて応援する。

 十文字がセナの側に行く。自然にメンバーがセナの元に集まった。
 十文字の眼光がアイシールドを貫く。
「とにかく!俺が進を止める!後はお前次第だっ!」
「うん!」
 セナは怯えることなく視線を返し、うなずく。
「行くぞ!」
「ぶっ殺すっ!!!」
 気合いをかけ、選手がグランドに還っていく。

 後半戦が始まる。選手がフォーメーションを組んでいく。ヒル魔の視線はグランドに立つ、日本史上最強のラインバッカーに集中した。その姿、その存在感に舌打ちが出る。
 ヒル魔の目の前で試合が繰り広げられていた。
「ヒル魔・・・」
「なんだ、糞デブ」
 ヒル魔の隣に腰掛けた栗田がぼんやりとグランドを見ている。
「どうして僕達、ここにいるんだろうね」
 ヒル魔の口からガムが膨らみ、大きくなる。
「進君や桜庭君があそこにいるのに」
 ガムがパチンとはじけた。ヒル魔と栗田は泥門と王城の試合を、グランドの外から眺めていた。
 泥門は夏で3年生は引退になる。もう試合に入ることは出来ない。
「・・・ズルイ」
「なにが」
「ズルイよ」
「・・・そーだな」
 しかし王城の3年生は秋大会、そして勝てばクリスマスボウルまで部活参加が出来る。
 ベンチから出来ることは応援だけ。去年より経験を積んだ『2年生』のセナ達を、見てることしかできない。

 ヒル魔と栗田が引退し、QBとラインの要がいなくなった。
 アイシールド効果で部員が入ったが、根気がないのかヒル魔の特訓ついていけないのか、残った者は少ない。その中の一人、タッチフットの経験者がいた。それも投手、QBだ。ヒル魔と栗田が抜けた以上、ちゃんとした経験者じゃその新人だけだった。作戦を立てる司令塔だったヒル魔が抜けた以上、今まで以上に視野を広めなければならない。セナ達にとっても、新人にとっても必死だ。今まで以上にアメフトの試合は見たし、どぶろくから話を聞いた。
 新人QBは熱心でヒル魔のしごきにも耐えきった。でも、ちょーっとビビリだった・・・。よくモン太がフォローしていた。それはついさっきも。

 グランドでは泥門の攻撃、新人QBがパスを出している。いいパスだと思いながら、ヒル魔は素直に応援できないでいる。
 引退はルールとして仕方ないと思っていた。
 でもグランドに、進が立っている。日本史上最強のラインバッカーがいる。なのにヒル魔と栗田は闘えない。グランドの中に入れないのだ。
 いつの間にかヒル魔の手は握りしめられている。目はより厳しくグランドを見ている。どうすれば勝てるか。どうすれば・・・。



『ちきしょう!
俺を試合に出せ!!!

俺達に試合をさせろ!!!』




 割り切れない思いがあふれていく。
 苦い思いが燃えている。


■未来捏造。

04/07/05 ★ MAGIC CHANNEL / キル