- 雨に濡れたふたり -

アイコン素材「苔色」



 冷たい雨が全身を打つ。雨足が強くなり、地面に強く当たり水が飛び跳ねていた。
「凡人に生まれた男はどうしたらいいんだ・・・!!」
 桜庭は道中で跪き叫んでいた。
 それは進への問いかけだったのか、自分への問いかけだったのか。
 5年間の、今まで言えなかった叫びだった。
 進は振り向かない・・・。



「―――んだ・・・!!」
 大雨・豪雨の中、雨音が大きく進にはこれだけしか聞こえなかった。

 進はロードワークに出たのだが、富士の町に不慣れのこと、雨が降ったことも重なり、実は道に迷っていたのだった。
 桜庭らしい声に、合宿所に帰れるとほっとしたが、桜庭の様子が気にかかった。
 それにずいぶん雨の中にいたので、体が冷え切っていた。体温低下、体力低下の心配があった。



「桜庭・・・」
 声をかけたが聞こえている様子はなかった。進が何度か桜庭を揺すると、やっと桜庭は顔を上げた。
「緊急避難だ」
 そういって近くの建物を見上げた。桜庭も同じように、進の見上げた方向を見て・・・目が点になった。
 進は桜庭の手を取り立ち上がらせようとする。
「・・・話はここで聞く」

 そこは闇の中に光る・・・・・ラブホテルだった。

 は?はあ?はああぁ?
 どこかの三兄弟のような声を出してしまいそうになった。
 桜庭はこうこうと光るネオンを呆然と見つめ、混乱する。

 『・・・話はここで聞く』ってラブホテルの中で話を聞くのか?その話って俺の中の5年間のお前への劣等感だったり、お前が知らないだろう芸能界入りのことだったり、アメフトを辞められなくて5年間無駄に過ごしたことだったり、みんなみんなお前に繋がることだったり、「凡人」は「天才」に勝てないのかってことだったり・・・。
 そんな5年間の鬱積を、俺はラブホテルの一室で話さなきゃならないのか?!
 なんでラブホテルなんだよ!てかお前、ちゃんとお金持ってるのか?俺ヤだぞ、合宿所に電話して迎えに来てもらうなんてこと。ちなみに俺はミラクルさんにさらわれて所持金0なんだぞ!カードも持ってないぞ!大丈夫なのか?それよりお前はあれがラブホテルだって気が付いてるのか?どんな場所か知ってるのか?

 眩暈がして桜庭はまたうつむいてしまった・・・。
 昼間の練習の疲れと、さらわれた車からここまで走ってきたことの疲れと、ラブホテルという精神的ショックで、脱力してしまった。ここで笑ったら本当にヤバいという自覚があった。
 とにかく進を説得してタクシーを拾おうと頭の隅でぼんやりと考えた。

「・・・らば、桜庭」
 反応が無くなった桜庭を心配した進は溜息を付いた。そして仕方がないとばかりに桜庭をいわゆる花嫁抱きにして抱き上げ、ラブホテルの建物の中に入っていくのだった・・・。

『勝ちたいんだ、進に!』
 こんなところでも・・・と桜庭は強く、思うのだ。
 桜庭の顔はムンクの「叫び」の絵のように固まっていた・・・。
『チキショー!天然め!!!』

すいません・・・


■桜庭、かわいそうに・・・。笑えなかったらすんまそん。ヒステリックになった桜庭はヤケになり・・・ってのはダメだった。ギャグだし!←免罪符。 ■ジャンプ読み直したら、進が走ってた所って合宿所のグランド?

04/06/29 ★ MAGIC CHANNEL / キル