ちゅーりっぷ



 チョッパーがチューリップを持って船に戻ってきた。新聞紙で包まれたチューリップを両手いっぱいに大事そうに抱えている。島で知り合った女の子に大事に育てたチューリップをもらったとうれしそうにみんなに言った。

「どんな女の子だったんだ?」妙にニヤニヤして聞きたがるサンジと
「トナカイだってバレなかったか?」心配したウソップと
「きれいなチューリップね」花を愛でる女性陣と反応は色々違った。

「初めはびっくりしてたけど、友達になったんだ。いっぱい遊んで、その子んちのチューリップ畑で一番きれいなチューリップを選んでもらったんだ!」
 目をキラキラと輝かせ、頬も真っ赤にしながらチョッパーは答えた。

 赤・白・黄色・紫とカラフルなチューリップ。
 葉は外に向かってピン、と張りのあり、瑞々しい花は船で咲くようにと咲きかけの小さな柔らかい蕾。

 花瓶なんてしゃれたものは海賊船には無く、灰色のバケツに生けられたチューリップ達。それでもチョッパーはうれしそうにチューリップを見ている。
「後でバケツに絵を描こうか?」
 色鮮やかなチューリップに灰色のバケツの色気のなさ。ウソップのア−ティステックな感性に耐えられなかったようだ。絵心のあるウソップはバケツを華麗なる変身させるべくイメージする。
 しかし。
 目の前のナミと目が合い、『バケツはバケツでいいじゃない』『バケツなんだからいいだろ』アイキャッチで会話がなされる。
「え!いいのか?」
「いいよな、ナミ」
 ウソップはバケツを持ってきたナミにお伺いを立ててみる。期待に満ちた純粋な子供の目がウソップからナミに視線を移る。かわいらしい姿とお願い光線を出してるチョッパーにナミのガードは緩くなる。
「もぅ。・・・いいわよ」
 仕方ないと言う顔で溜息を付いてナミが答える。その様子を見てたロビンがクスリッと笑みをもらす。それに気付いたナミがロビンの足をぎゅっと踏んづけた。
「よかったな、チョッパー」
「ありがとう!ナミ、ウソップ!」
 青い鼻も真っ赤に見えるほど喜ぶチョッパーを見ていると、ふんわりした優しいあたたかさがキッチンを包み込こんでいるようだった。

「そうだ!みんなに一輪ずつチューリップ上げるよ」
「いいのかよ」
「いいんだ。はい、ナミ」
「ありがとう、チョッパー」
 少し赤くなりながらナミに渡したのは黄色いチューリップ。
「はい、ロビン」
「私にも?ありがとう」
 ロビンに渡したのは赤いチューリップ。
「はい、ウソップ」
 ウソップに渡したのは赤いチューリップ。
「ありがとな」
「はい、サンジ」
「あ・・・わりぃけど、この紫のチューリップにしてもいいか?」
 サンジに渡そうとしたのは白のチューリップ。紫のチューリップは2本しかない貴重な色。ちょっと困った顔をしたチョッパーだったが、
「うんっと、いいぞ。はい、サンジ」
「・・・ありがと!チョッパー」
「うっうれしくなんかないぞ〜」
 うれしそうな顔でくねくねと踊り出したチョッパーに笑いがもれる。ナミとウソップがチョッパーの踊りをマネて3人で踊り出し、サンジとロビンが笑い出す。
「マ、マネすんなよ」
「マネじゃないわよ」
 チョッパーの踊りからナミの踊りに別の物に変わり、チョッパーとウソップがバックダンサーに早変わり。マジメな顔して踊るウソップをまねて、チョッパーも妙にマジメな顔で踊っている。その様子にナミとウソップがフルフルと体が震えだし、笑い出した。何がおもしろいのかわからないが、みんなが楽しそうでチョッパーも笑ってナミの踊りを踊った。明るい笑い声がキッチンに大きく響いた。



 バタン!

「うまそー!」
 ドアを勢い良く開けてキッチンに入ってきたルフィは、カラフルなチューリップを見てとんでもないことを言った。
 驚いたチョッパーがチューリップを庇うようにルフィの前に出た。
「ダメだぞ!これは花なんだから食べたちゃダメ!」
「えーケチ」
「ケチじゃない!」

 にゅっと伸びたゴムの手がチューリップを手に取ろうと伸ばされる。慌ててチョッパーが獣型化しルフィに体当たりを喰らわす。

 ドシッ!

 1本のチューリップがルフィに取られ「あーん」と開いた口に・・・

「あー!」みんなの声が重なる!



三輪咲きトレスフルール



 間一髪!
 ルフィの体に生えたロビンの”手”がチューリップを守った!
 チョッパーのチューリップはルフィの口から逃れた。
 ・・・のだが。

 がぶっ!!

「イタっ」

 ぱくっと食べようとしていたルフィの口は、チューリップではなく、ロビンの”手”を噛んだ。
「あっ・・・」みんなの声が重なる・・・。

「クソゴム!ロビンちゃんの手に何て事を!!」
 サンジの蹴りが決まり、ルフィはキッチンから蹴り出され、ナミの拳骨をくらった。

 ロビンの”手”から落ちたチューリップは、体当たりしたチョッパーの近くに落ちた。頭のくらくらして周りがよく見れないチョッパーの前足が何かを踏んだ。

 ―――ぽきっ

 小さな音がした・・・。





「・・・お前、またなんかやったのか?」
 甲板ではルフィお仕置き実行中。逆さ吊りになってるルフィをゾロが呆れたように見上げている。
「絶対、みんなで楽しそうになんか食ってたんだ!」
 逆さ吊りになりながら、ルフィはきっぱり言いきった。
「いいじゃねぇか」
「よくなーい!」
 逃げられないようぐるぐるとロープで何重にも縛られ、蓑虫のようになったルフィは体を左右に揺らしながら、みんながキッチンで楽しそうにしてたことに拗ねていた。逆さ吊りの刑が解かれることは、夕食前までなかった。



「ううう・・・」
 涙目のチョッパーをナミが慰めている。一本のチューリップの茎がぽきっと半分に折れてしまい、赤い蕾が下を向いていた。折ったのが自分なだけに、チョッパーは泣くに泣けなかった。
 ウソップは折れた花を手に取ると、棒を接ぎ木のようにあて、花を立たせ倒れないように紐で強くもなく弱くもなく結んだ。
「チョッパー、大丈夫だって。花の生命力は強いから、これで水にちゃんとつけていれば花は咲くって!」
「本当か?」

「俺がウソ言ったことあったか」

「・・・・・」
 ウソばかりです。
 疑い深そうなチョッパーを見かねてナミがフォローを入れる。
「チョッパー、今ウソップが言ったのは本当のことだから、大丈夫よ」
「―――ごめん、ウソップ」
「いいって。気にすんな」
 ウソップに帽子をぐりぐりと撫でられ、帽子がチョッパーの視界をかぶる。帽子を持ち上げ、チョッパーはエヘヘと笑った。
「あとね、花を長持ちさせるなら氷を入れるといいって聞いたことがあるわ」
「・・・いっぱい入れる!」
「・・・・・いっぱいはやめた方がいいわ」
「じゃあ、ちょっとだけ」
「そうね」
 今度はナミがチョッパーの帽子をポンポンと軽くたたく。少し赤くなったチョッパーはエヘヘと笑った。
「よし、バケツに絵を描こうぜ!」
「うん!」

 ナミがチョッパーの島で出会った女の子やチューリップ畑の話を聞き、ウソップがバケツに一面に鮮やかなチューリップ畑の絵を描いた。バケツの外側はチューリップの花達が咲き、内側には青空が広がっていた。
「すごい!ウソップ」
「きれい!バケツとは思えないわ!」
「後はチョッパーが描けよ」
「え!?俺、絵、描いたことないぞ・・・」

 一度ウソップの絵のうまさに感動して、一緒に絵を描いたことがあった。
 初めて描く絵にドキドキしながらチョッパーはいろんな色を塗り重ねていく。ドキドキする気持ちは、そのうちに辛い気持ちになっていった。
 同じ紙、同じクレヨン、同じ物を描いているのに、出来上がった自分の絵は全然なってなくて悲しい気持ちにさせた。絵を描けばウソップのように描ける!と思っていたチョッパーはしょんぼりと落ち込んで、それ以来絵は一切描いていない。

 いっそう泣きそうな顔でチョッパーはもじもじしていると、ウソップが怒ったように言う。
「なに言ってんだ、俺はチューリップ畑は見たことあるけど、チョッパーと一緒に遊んだ女の子のこと知らないし、どんなことしたか聞いただけじゃ描けないからな。これはお前の仕事だ」
「俺の仕事・・・」
「そうだ!がんばれ!」
「うん!」

 ウソップの描いたチューリップ畑の上にチョッパーが女の子や、一緒に追いかけた蝶々の絵を慣れないながらも一生懸命描いていく。二人はあたたかい目でチョッパーを見守った。



 キッチンではサンジがロビンの手当をしていた。とは言っても、実際の手には傷はない。しかし”ハナハナの実”で体から咲かす”手”のひとつに歯形が残った。
 それもくっきりと。
 ”手”に消毒をして包帯を巻こうとするサンジをロビンは止めた。
「別にかまわないわ」
「でも、でも・・・」

 歯形が・・・

 歯形のついた”手”をロビンはクスクス笑いながら見ていた。少し嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか?そう感じたサンジは溜息を付いて手当を終えた。
「ちぇ。ロビンちゃんはクソゴムがお気に入りだからなぁ」
 拗ねたようなサンジにロビンは微笑みかける。
「そういうコックさんはずいぶんロマンチストじゃないかしら」
「まあ、そうですね」
 煙草の煙がハート型になって飛んでいく。
「さっき、船医さんからチューリップをもらったでしょう。白のチューリップじゃなくて、紫のチューリップなのね」
 くわえていた煙草が口から落ちる。慌てて拾い上げようとサンジはしゃがみこんだ。
「それは王女様に対して?」
「・・・えっーと」
「ふふふ。手当ありがとう」
 パタンと静かにキッチンの扉は閉じられ、ロビンの”手”が落ちた煙草を拾い、灰皿で消していった。



「バレバレか・・・はずかしー」
 しゃがみ込んだまま、サンジはそのまま頭を抱えた。そこには思いっきりテレたサンジがいた。
「さすが考古学者。あなどれないな」
 まだ赤みの残る顔で立ち上がると新しい煙草に火を付ける。口から吐き出される紫煙が溜息のようにくゆらせる。
 机の上にぽつんと置いてある紫のチューリップに気付くと、背の高いグラスに水を入れ、花を生けた。
 ぼんやりと小さな蕾に左にしなった紫色のチューリップを見つめる。

「白はな・・・ダメなんだよ。赤も黄色でもいいんだけど、紫があるんならやっぱり紫のチューリップだよな・・・」

 前に青い髪の女の子に教えてもらった花言葉。
 船には残らず、砂の国に残った自分だけのプリンセス。

『それは王女様に対して?』

「その通りです、ロビンちゃん」
 サンジはさみしげにチューリップの花びらをそっと撫でた。







紫のチューリップ。
―――花言葉は『永遠の愛情』


4月10日までDLフリーです。 DLフリーは終了しました。
■急に「ちゅーりっぷ」という単語がかわいく思えてSSにしてみました。ひらがなでね、ちゅーりっぷ。かわいい…。ちょびっとウソナミでルロビでサンビビ。気持ちチョナミもね。すごい楽ちー。チョッパーの描く絵はドローリングの幼児の絵。
■私の見た本では花言葉は「チューリップ/美しい瞳」「チューリップ(白)失恋」「チューリップ(黄)愛の表示」でした。

03/04/03 ★ CULT BITTER / キル