TENPEST
空は青く、海は静か。 そんな様子をビビはひとり、メインマストの見張り台で見ていた。 まわりはすべて海で代わりばえしない風景に、普段みんなといるときは決してつかないため息をついた。 ひとつはアルバスタのこと。もうひとつは自分でもどうすればいいのかわからない感情についてだった。 いつも視線を感じた。 振り向くとサンジが見ている。目が合うと笑いあう。 調子のいいフリをしてビビを真剣に見る瞳。カンの鋭い者ばかりのこの船では、サンジの気持ちにみんな気付いている。 視線の意味にビビは鈍いフリをして、気付かないふりをしている。今のビビには『恋』という怪物を心に入れる余裕はなかった。 それなのに。 サンジの目を見てしまうとぐらつきそうになる自分も感じていた。 「あーあ。空も海も平和なのに」 青い青い空に大きな白い雲が映える。ビビの好きな青空の色が落ち込みそうな気持ちを癒す。 濃い青色にサンジのシャツの色を思った。 いまサンジの手を取ってしまえば、小さな恋はみのるだろう。 だけどアルバスタに着いたら戦いが待ち、アルバスタを救えば別れがある。残るのは思い出と・・・想いだけ。 ――― 打算的だ・・・。 そう思う気持ちがサンジの手を取れないでいる。 「このままじゃだめかな・・・」 「何がダメなんだ?」 ビビが振り向くと普段は船首に座りこんでいる船長がいた。手に持つ蜜柑をひとつビビに渡す。どうやらナミから少しでも逃げるために緊急避難にここに来たらしい。 「後でナミさんに怒られますよ」 もう!と思いながらも蜜柑を受け取る。ルフィはすばやく蜜柑を食べ終え、寝ころぶ。 「あ!」 「どうしたんです?」 「なぁ、ひざまくら」 そういうとビビの腰に抱きついた。 「はいはい」 ビビも慣れたもので膝を伸ばした。ルフィもビビの膝に頭をのせ、麦藁帽子を顔にのせる。 気持ちよい風が吹いてきた。 「サンジにもこんなことしてるのか?」 急に聞かれ、意識の飛んでいたビビは何のことか分からない。 「何のことですか?」 「ん。サンジにも膝枕してやってるのか?」 「・・・してません」 「なんで?」 「なんでって・・・ルフィさんみたいに『してくれ』なんて言われませんし」 「そうだな」 麦藁の下でシシシと笑う声が聞こえる。 「このままサンジの気持ちに気付かないフリするのか?」 「う・・・バレてます?」 「まぁな」 ビビは思わずため息をついた。 今はルフィだけだが、そのうちみんなが気付く・・・そう思うと気が重くなった。 「悩んでるのか?」 「はい」 ルフィは顔にのせてた麦藁帽子を取り、人の悪そうな顔でビビを見上げる。 「俺にしとけばいいのに」 「冗談ばっかり」 「そっか?」 「そうですよ。いっぱい泣かされそうです」 「そうかなー」 ビビに決めつけられ、ルフィは考えるフリをする。 「アルバスタまであと少しなんだろ?好きなら好きって言えばいいじゃねえか?」 「・・・後が辛くなります」 「なーんだ、傷つくのがこわいだけか」 そういうとまた麦藁を顔にのせる。ルフィの一言はズバリ、ビビの気持ちを言い表していた。 進行方向から強い風が吹いてきた。 「そうね」 このままじゃどちらも辛い。 「そうですね・・・覚悟を決めなきゃいけませんね」 自分から傷つけ傷つけられる覚悟で飛び込んでいかないと、アルバスタも自分の心も前に進めない。 出口のない迷路なら、道を作るだけだ。 「あーあ。空も海も平和なのに」 今、ビビの心に吹き荒れる
■錆流さんに投稿しました。サビル難しいです。
01/11/04 ★ CULT BITTER / キル
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