smell sweet




「え?」
 停泊した島での買い物中、サンジはすれ違った女性が気になり、立ち止まり振り返った。そしてそのまま目が離せないでいた。市場の買い物につきあっているナミとロビンは、サンジに話しかけるが返事がない。ぼんやり立ち止まっているサンジに、ナミは魔女の笑みを浮かべた。

「サンジ君、あの人気になるの?」
「うん・・・って変な意味じゃないですよ」
「変な意味じゃないならどんな意味?ビビに言っちゃおうかな」
「えっ!?それはカンベンしてくださいね、ナミさん」
「どーしよっかな?」

 アラバスタは救われ、ビビとカルーは船から下りた。別れはわかっていたことだったが、ビビは共に来るのでは・・・という期待もあった。寂しいのはみな同じだが、カラ元気なサンジは見ていて痛々しいものがあった。

 サンジの慌てようがおもしろいのか、ナミのからかいはエスカレートしていく。ナミなりの励ましなのか、少々の意地悪は許されるだろう。ロビンもそれがわかっているのか、いつものように微笑んで二人のやりとりを見つめている。

「あの人とすれ違った時、なんかビビちゃんみたいな気がして・・・」
 サンジから振り返った理由を聞いて、ナミはその女性を改めて見た。店先でしっくり品物を見ている女性は髪は茶色のショートで、身長もビビより高い。持ってる買い物かごから見える食料は多く、家族がいるかまたは主婦だと思われ、どうみても地元の人間だった。
「どこが似てるの、全然似てないじゃない」
 ナミが文句を言うが、サンジも理由がわからず、だから気になったという。同じようにその女性を見ていたロビンがゆっくり言葉をもらした。

「・・・フレグランスじゃないかしら?」

「「フレグランス?」」

「もしかしたらね。確か王女様は香水をつけてたでしょう?」

 そう言われてナミとサンジは、女性のいる店先にさりげなく近寄った。不審者に見られないように注意して鼻を利かした。
 ついこの間まで側にあった懐かしい香りが鼻をくすぐる。雑多な食料の匂いの中に、かすかに香るあまい花の匂いがあった。



 匂いのショックを受けていたナミとサンジを、ロビンがさりげなく店から連れ出した。匂いの記憶がいっそうビビを思い出させた。

「私があげたヤツだ」
 ナミはつぶやいた。自分がするには甘すぎて似合わないと思った香水をビビにあげたことを思い出した。青い色のついた瓶はかわいい形をしていて、見てるだけでもステキ。と喜んでいた。

 サンジから煙草の匂いがするように、ビビからはあまい花の匂いがした。甘いお菓子を欲しがる子供のようにサンジはキスを求め、ビビを抱きしめると花の匂いはいっそうあまく感じられた。それは香りの記憶だった。



 それから・・・。
 ロビンが香水を売っている店を見つけ、ナミが香水を探し出し、サンジが2つ購入した。

 ひとつは遠い砂漠の王女様のプレゼントに。
 もうひとつは自分のために。
 甘い香りが寂しさをほんの少しでもとかすように。


03/03/11 ★ CULT BITTER / キル