スクランブル・モーニング



「おはよう、チョッパー」
「おはよう」
 海賊になって第一日目。少しテレたようにチョッパーは朝のキッチンに入ってきた。
「おお、チョッパー。ここ座れよ」
 ウソップに声をかけられ、嬉しそうにウソップの隣りに行く。小さい体で椅子によじ登り、席に着いた。

「いっただきまーす!」
 ルフィのうれしそうな挨拶で食事がはじまった。それは朝からはじまる戦闘。ガツガツと己の分をあっという間に食べ終え、ルフィの魔の手は他の者の皿に移っていく。まさに、喰うか食われるかの世界である。女性陣は食事は、もちろんサンジが鉄壁の防御を引いて守ってる。

 昨日ルフィの食べっぷりを見ていたチョッパーだが、あっという間にルフィに盗み食いされてしまった。
「俺の朝ごはん・・・」
 涙目のまま、椅子に立っている。チョッパーの体では、キッチンの椅子の高さが合わず、立って食べなくてはいけなかった。そのことに気を取られてるスキのことだった。

 それに気付いたビビは、チョッパーを抱き上げると膝の上に乗せた。
「!?な、な、なんだ?」
「トニー君、私の分食べていいよ」
 驚いてビビを見るチョッパーに、ビビは自分の朝食を差し出した。
「いいのか?」
「うん。食べられる?食べさしてあげようか?」
 ニコニコ笑うビビのチョッパーへの対応は、どう見ても幼児に向けてのモノだった。ビビはこのかわいいぬいぐるみのような馴鹿を小さな子供だと思ってるようだ。
「だ、だ、大丈夫だっ」
「すききらいとかないの?」
「なんでも食べれるぞ!」
「えらいね」
「え、偉くもなんともねぇぞっ!」
 青い鼻の回りを真っ赤にして、一応文句を言っている・・・がうれしそうだ。
「よかったわね〜」
「食べさせてもらえよ」
 と冷やかしのヤジも飛ぶ。しかし一人だけ、その様子を冷静に見れない男がいた。

「ビービーちゃん、クソ馴鹿の分は後で作るから、まず自分の分を食べて下さい」
「ありがとうございます」
 そういって、チョッパーが口の回りを汚したのをナプキンでふいてやっていた。

「・・・俺もしてもらったことないのにっ〜〜〜!」

 サンジの方が幼児のようにだだをこねだした。その様子をビビは注意する。
「大人げないですよ」
「大人げなくていいです!」
 今度は拗ねる。まったく子供だ。ビビは笑っているが、サンジには、まったく笑える事態ではなかった・・・。

「おい、ウソっ鼻!今からクソ馴鹿の椅子を作ってくれ!!」
「へ?」
「頼んだぞ!」
 サンジは片手に包丁を持ってどうみてもウソップを脅していた。
「ちょ、ちょっと待て!今、んな材料ねぇぞ!まず船の修復が第一で、椅子作る材料がないんだよっ」
「なんとかしろ!俺の幸せにかかってるんだっ!!」
「サンジくんの幸せより、船が沈まないことが第一よ」
 すかさずナミがフォロー(?)する。恨めしそうにサンジはナミを見るが、ナミは面白そうにニヤニヤするだけだった。

「そっか、椅子はムリなのか。じゃ、クッションで何とかならないかな」
 ビビが代案を出す。クッションを重ねて座ればチョッパーも座って食べられる、というわけだ。
「ナイスです!そうしましょう!クソ馴鹿、よかったな!今後、俺のビビちゃんの膝に乗るんじゃねぇぞ!!」
「サンジさん、トニー君の前で汚い言葉使ちゃダメですよ」
「へ?きたない?」
「トニー君がマネしちゃいますよ。トニー君、使っちゃダメよ」
 まったくいいお母さんになりそうなビビである。その様子をナミは肩を震わせヒーヒー笑っている。

「後でクッション作ってあげるね」
「お、おう。あ・・・ありがとう」
 ビビの膝の上で、テれてるチョッパーは小さな声でお礼を言う。
「どういたしまして」



 心温まる光景を、サンジだけは涙を流しながら妬ましそうに見ているのだった。


03/01/14 ★ CULT BITTER / キル