奇 跡 の 雨



 アルバスタに3年ぶりの雨が降る・・・。
 その様子をビビは窓辺にイスを持っていって見ていた。潤いと希望をもたらした雨は、夜になっても降り続き、ずっと見ていても見飽きるものではなかった。

 やっと終わった・・・アルバスタへの陰謀はこれでなくなったのだ。
 ビビはそう思っても、まだ夢を見ている気もした。
 実感のわかない心に、奇跡の雨がゆっくり染み込んでくる。
 もう二度とこの国が悪夢に襲われませんように・・・心の中で強くそう願いながら、ビビは両手を握りしめた。



 ドサッ!
 誰かが豪快にベットから落ちた音が聞こえ音の方を振り向くと、サンジがどうやらベットから落ちたようだった。
 部屋には7つのベットが並べてあり、みんなぐっすり眠っている。
「ウソップさん、なんて寝かたを・・・」
 すごい寝相だが、布団からはみ出てる手足の包帯が痛々しくうつる。ビビは立ち上がり、みんなの布団をかけに回った。
「ありがとうございます」
 ビビは一人一人に小さな声で礼を言っていく。明日は大きな声で言おう、と思いながら。

 さすがにサンジをベットに乗せられないので、そのまま布団を掛けようとすると下から手が伸び、ビビはサンジに抱きしめられた。
「サ、サンジさん・・・!?」
「ビビちゃん、まだ起きてたの?」
「サンジさんこそ」
 サンジの体からはタバコの匂いと消毒液の匂いがする。ビビは手をサンジの顔によせて尋ねた。
「怪我は大丈夫ですか?」
「ビビちゃんを抱きしめるぐらいは平気さ。それよりビビちゃんこそ・・・」
 今度はサンジがビビの額に手を当てた。ビビの額には小さく絆創膏が貼られていた。肩に揺れてるビビの髪を梳くように撫で、額にくちづけた。
「傷、残らないといいね」
「大丈夫ですよ」
 ビビはサンジの胸に耳をあてる。心臓の鼓動に安心して目を閉じる。

「サンジさん・・・ありがとう。
戦ってくれて。
助けてくれて。
生きていてくれて・・・ありがとう。
・・・どれだけ言っても足りないけれど、何度でも言うわ。
ありがとう・・・・・ありがとう」

 ビビの言葉にサンジは切なくなり、いっそう深く抱きしめる。
「それは『王女』として?それとも『仲間』として?」
「・・・どっちなのかしら?」

 アルバスタは救われた。
 海賊がここにいる理由がなくなり、ビビは王女に戻らなければならない。
 このまま一緒に・・・と言い出したいが、それはビビを困らせるだけだ。それがわかっていてもサンジは口に出しそうになる。そうしないために、サンジはビビに口付ける。額に、涙に濡れた目尻に、赤く染まった頬に、痛々しい包帯に、柔らかな唇に。

「どっちも・・・『私』よね?」
「そうだね。どっちも『俺のビビちゃん』だ」

 そういって、二人は笑って抱き合って眠ってしまった。















 次の日・・・。

 サンジのベットの回りは殺気立っていた。
 ベットから落ちたサンジはビビを抱きしめながら、気持ちよく眠っていたのである。
 それを見つめるコワイ顔をした国王コブラ、イガラム、ナミがいた。
 少し離れたところから、こわごわその3人を見ているウソップとチョッパーもいた。剣豪は眠るルフィの横で溜息を付いた。



 外には潤いの雨が降り、室内には血の雨が降ったという。


■「とうとうあにめもビビ姫さよなら企画」さんに投稿しました。
■オチは絶対こうだ!と決めてたから、途中までのシリアスな感じ(?)が書きずらかった(笑)。

02/11/25 ★ CULT BITTER / キル