恋せよ乙女




 朝日を見ると元気になる、そう聞いたのはいつのことか。
 それは太陽を感じて体内時計が正確に戻るものかもしれないが、朝のすがすがしさ、静けさ、海のにおい、何もかもが独り占め出来るからかもしれない。
 少しずつ明るくなり、太陽の光を感じる。太陽からパワーをもらっている気になる。

生命みじかし 恋せよ乙女
あかき唇あせぬまに
あつき血潮のひえぬまに
明日の月日はないものを

 今しか一緒に居れないのなら恋などしなければいいと思っていた。それはカンタンな事に思えた。なぜなら自分にはしなければならないことがあったから。
 まさか人はこんな簡単に恋に落ちるとは思ってもいなかった。

明日の月日はないものを

 アルバスタに着いたら今生の別れになるかも知れない。だからこの時を大事にしたいと思うようになった。こんな形でしか会えなかったのだから。
 哀しい気持ちになったら太陽の力を借りる。少しでもこの体にパワーを。

「おはよう、ビビちゃん。今日もキレイだね」
「おはようございます、サンジさん」
 この船で一番の早起きはこのコックさん。
「時々ビビちゃんは早起きだね。眠れないの?」
 心配そうな顔をされてしまう。少しは眠れるし食欲もある、心配することは何もないですよ。
「いいえ、太陽の力を借りに来たんです」
 笑顔で答えると今度はサンジさんが考えた顔になる。そして背をかがみ視線を合わせる。
「太陽の力を借りるより俺たちの力を借りて下さいよ」
 至近距離で見られるとドキドキする。
「より正確には『オレ』の力を借りて下さい」
 サンジさんの頬が赤いのは気のせい?
 そんな嬉しいこと言わないで。笑い出しそうになる、泣きそうになる。
 もう一つの私の太陽みたいね。



 目の前のサンジさんに私はキスをしてみた。
「ビビちゃん・・・」
「はい?」
 クスクス笑う私はサンジさんに抱きしめられた。
「そーゆーことは言ってくれませんか?」
「サンジさんはいつも言ってくれませんよ」
 突然キスされていつも驚く私の気持ちが分かったかしら?小さな逆襲よね?
「そーですけど」
 抱きしめてた手を離し改めて背をかがみ視線を合わせる。
「キスしてもいいですか?」
「・・・」
 サンジさんは笑ってる。
 自分が墓穴をほってしまった・・・顔が赤くなるのが分かる。人差し指を立て唇に持っていく。
「少しだけ・・・」
 その人差し指にキスひとつ。
「おや、少しだけですか」
 手を取られ、唇にキスが落とされる。
「オレは欲張りだから少しじゃダメですよ」
 サンジさんは笑いながらキスを繰り返す。
「ならもう少し」
 目を閉じると世界は遠ざかる。使命も願いもこの一瞬だけ。
 どうかこの時だけは・・・

あかき唇あせぬまに
あつき血潮のひえぬまに


01/07/30 ★ CULT BITTER / キル