このせまい野原いっぱい



 八班担当上忍紅は、集合時間通りに表れた。待ち合わせ場所にいた八班の三人は素速く立ち上がり、紅の言葉を待った。
 「今日の八班の任務は・・・草むしり」
 「え−−−!!またかよ」
 犬塚キバがすばやく大声で文句を言う。キバの頭の上にいる赤丸も吠えて文句を言てるようだ。
 「・・・ではなくて」
 紅がいったん言い直す。
 「薬草摘みです」

 「結局草むしりかよ!」
 はあっとキバは大げさにため息をつきしゃがみ込む。
 「おい、お前らもなんとか言えよ。また雑用だぞ」
 キバは仲間の油女シノと日向ヒナタに声をかける。
 「これも任務だ」
 シノはぼそっと答える。
 「う、うん」
 ヒナタは指をもじもじさせる。
 二人の返事を聞いて、キバはまた大きくため息をついた。




 「では、はじめ!」
 紅の言葉で三人三様にちらばり薬草を探しす。
 三人はアカデミーで習ったことを思い出しながら黙々と作業し始めた。



 ヒナタはこの任務が好きだった。
 人といるとどうしても気後れしてしまい、一歩も二歩も気持ちが後ろに行ってしまうのだが薬草を取ることはマイペースで誰も気にせずやれる数少ない任務だった。



 ヒナタはクナイを持ち土を掘っている。
 たんぽぽの根は、長く、たくましく、場合によっては朝鮮人参のそれに似ている。その根を乾燥させ、粉にして、お菓子の材料や蜂蜜を混ぜて甘い薬湯になる。たんぽぽの根を切らぬように慎重に回りの土を掘り出していた。

 そのとき、
 「ヒナタ!」
 シノがヒナタに向かって石を投げた。



 ヒナタは動けなかった。
 忍びとしてすばやく動けるはずだった。
 だがシノに石を投げたという驚きで、ヒナタの体は固まったように動けなかった。

 投げられた石はヒナタの心に入ってきた。



 だが、石はヒナタには当たらなかった。
 「大丈夫か?」
 「・・・え?」
 シノが石を投げた方向を指さす。
 そこには毒蛇が草むらに逃げだそうとしているのが見えた。

 シノはヒナタに近づいててきて、もう一度言った。
 「大丈夫か?」
 「うん・・・」
 返事をしたとたん、心の緊張が解けヒナタは目から涙をぽろぽろと流した。
 シノが驚いたのが分かったが、涙を止められなかった。

 石を投げられるくらい嫌われていたのかと思ったのだ。

 「・・・ひっく・・・うう」
 困ったシノは少しでも落ち着くように、ヒナタのあたまを撫でる。
 「大丈夫だ、蛇はもういないから」
 蛇が怖かったのではない。シノに嫌われていた、と思ったのがこわかった。そしてシノを信じられなかった自分が悲しくて、涙がまたこぼれた。
 投げられた石は、ヒナタの中のシノに対する気持ちを自覚させた。



いま流している涙は、恋というもののせいだろうか。


02/11/04 ★ CULT BITTER / キル