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 真夜中、私が甲板に出ると、空にはぽっかり穴の開いたような大きな満月が見えた。
 船がちゃんと動いているか確かめるように、私は夜の海を見つめる。海は大きくて・・・世界はこんなにも大きく、アルバスタは遠いと教えてくれる。嫌な現実を突きつけられているようだ。眠ることさえ安らぎにならない。

 昼間は隠れていたものが、夜の闇とともに私の中にあふれ出てくる。
 バロックワークスへの憎しみ。私をかばってくれたウィスキーピークの仲間。そして・・・
 イガラム。
 私を見守ってくれる人がいなくなった哀しみと不安。イガラムに甘えていたのがよくわかる。




「ビビちゃん」
 振り向くとサンジさんが後ろに立っていた。
「サンジさん・・・どうしたんですか?こんな夜中に」
 私が驚いて聞くと、サンジさんは空を指さす。
「月がまんまるで、あんまり明るくて眠れなくなってね。ビビちゃんは?」
「・・・私も月見かな」
 そういって海に映っている月を指さす。波にゆらゆら揺れて不安定で寂しげな月が見える。
 そして。
 黙り込んでふたりで大きな月を見上げる。
 いつもおしゃべりなのに、こんな時には話さないんですね。

 見上げる月は明るくて影ができ、甲板にサンジさんと私の寄り添う影が映る。そんな影を見たくなくて座りこんだ。
「ビビちゃん?」
「お月様を見上げていたら首が痛くなるでしょう」
 そのままごろんと寝転んで見ようとすると、サンジさんは急いで上着を脱いで下に敷いてくれた。
「どうぞ」
私が困ったようにしていると、サンジさんが先に寝転んだ。
「・・・すいません」
 礼を言って、私も横になる。
 上着はサンジさんの体温が暖かかった。なんだかサンジさんに抱きしめられてるようだ。
 こんなはずじゃなかったのに・・・。

「やさしいんですね・・・」
「ん?」
「あんまり優しいといろいろ誤解されちゃいますよ」
「誤解、ですか?」
不思議そうに聞かれる。あら?変なこと言ったかな。
「だってナミさんが好きなんでしょう?」
「ナミさんもすきだけど、ビビちゃんのことは愛してますよ」
 『愛してますよ』と軽く言われて、笑えればよかったんだけど今は笑えなかった。
 ずっと海と月を見ていたからかも知れない。
 サンジさんの上着は暖かかった。

「サンジさんこと、好きになっていいですか?」

 気が付いたらそう言っていた。
 サンジさんが驚いて起きあがる。このままいつものように軽い調子で返されるかと思っていた。

 それなのに・・・。

 月を背に私をのぞき込む優しい顔が見える。
「もちろんです」
 こんな優しそうな顔見たら女の子はたまらないだろうな、と人事のように思った。

「もっと、好きになって下さい」


05/01/14 ★ CULT BITTER / キル