マジでKISSする5秒前




 おやつの時間に姿を現わさなかったプリンセス。
 サンジはビビの分のおやつ、特製プリンを持ってビビがいるだろう場所に向かっていた。
 ナミのみかん畑が彼女のお気に入りのようで、座りこんでいる姿をよく見かけていた。

 みかん畑への階段を上がると、やはりビビはみかんの樹の下にいた。葉陰からこぼれる光がキラキラと降る中、ビビは樹にもたれ、伸ばした足には読みかけの本をおき、スースーと気持ちよく眠っていた。

「ビ・・・」
 ビビの名前を呼ぼうとして止める。
 いろんな事がありこの船に乗り込んだ勇敢なお姫さま。眠れない日々も多いだろう。今こうして眠っているのだ。起こすのは悪い気がした。
 気持ちいい風がビビの前髪を揺らす。長いまつげの影が見える。自分の感情を出す前に噛みしめられる唇は艶やかに光っている。

 ―――いつも笑っていてほしい。自分だけに。

 そう思ってサンジは苦笑する。
 ビビは本物の王女様で、その笑顔は万人に向けられる。太陽を独り占めできないようにビビを独り占めすることは出来ない。そう思うとサンジの口からため息が漏れる。いつも言ってる『スキだ』という言葉が、いつの間にかサンジの本心になってきていた。

 サンジは顔を近づけビビを見つめる。眠っている姿は無防備で、ビビの唇から目を離せない。

 ―――その唇は柔らかいだろうか?
 そう思うとますます目が離せなくなっていく。ドキドキが盛り上がってくる。

 ―――キス・・・してぇ・・・
 このままキスすれば、自分を押さえられなくなる。もっと深くさらに求めてしまう。人の欲望には切りがない。そう思いながらもサンジはビビの顔に手を添え、また近付く。

 ビビの唇まであと数センチ・・・。















 ・・・・・そこでビビは目を覚ました。

 寝ぼけてるのか、ボーっと目の前のサンジを見ている。サンジは青い瞳に見つめられ動けない。無断キス一歩手前で相手が目を覚ましてしまい、どうすればいいかわからないのだ。

「・・・・・」
 ビビは怒るでもなく、ただサンジを澄んだ瞳で見つめる。
 サンジの背中に冷たいものが流れる。何を言おうと考えていると、ビビの方から動いて・・・・・。





 サンジの唇をふれあわせるだけのキスをした。





「え、えっと、ビビちゃん・・・」
 驚くサンジに、ビビは首を傾げる。

「キス・・・」

  (ビビちゃんとキスしたよ!)

「・・・したいのかと思った」
  (したかったです!)

「違うんですか?」
 きれいな青い瞳がサンジを映す。
「むちゃくちゃキスしたかったです!!」
 力んで答える。サンジの返事にビビは優しく微笑むとまた目を閉じてしまった。サンジは慌てて眠ろうとするビビを揺り起こす。
「え、ビビちゃん!ビビちゃん!」
「なんですか・・・?」
 眠そうに返事を返される。
「俺、ビビちゃんのこと好きなんです!」
「・・・アリガトウゴザイマス」
 いつものように受け流がす返事が帰ってきた。今までの態度と勢いでした告白じゃ信用がないってもんだ。
「そうじゃなくて、本気で好きなんです!」
「・・・・・今まで本気じゃなかったんですね」
 ビビの静かな言葉にトゲを感じるのは気のせいではないだろう。
「今、自覚したばかりなんです!ビビちゃんが好きなんです!」
「・・・そんな大声で」
 呆れるビビに反しサンジは必死になる。
「信じてくれるなら普通に話します!」
 考え込むようにビビは黙り、サンジはドキドキしながら次のビビの言葉を待つ。やけに沈黙を長く感じる。
「・・・ところで、どうしてサンジさんはここに?」
「あ。おやつの時間にビビちゃん来なかったからお届けサービス」
 特製プリンをビビの前に差し出す。ボールにプリンダネを入れ固まらせた巨大プリンだ。
「わぁ!おいしそう!」
「食べてみて下さい」
 まるで花が咲いたよう笑顔にサンジもうれしくなり、スプーンを差し出す。ビビはうれしそうにプリンをすくい、ひとくち口にいれる。
「おいしい!」
 その言葉でサンジはうれしくなる。今ビビの笑顔を引き出したのは自分なんだ、と幸せに感じる。
「俺は・・・ビビちゃんの笑顔が好きで、俺の料理をおいしいって食べてくれるビビちゃんが好きなんだ」
 サンジの言葉を聞いて、プリンを食べる手を止める。
「・・・私は、サンジさんの料理が好き」
「うん」
「サンジさんの料理を作ってる姿も好き」
「うん」
「女の子口説いてる時はあまり好きじゃない」
「・・・・・」
「けど、女の子の相手をしないサンジさんはサンジさんじゃないもんね。そうね・・・起きて目の前にサンジさんの顔があったら、キスするほど好きだわ」
 そう言ってクスクスとビビは笑った。

「・・・ホント?」

 信じられないようにサンジはビビを見つめる。
「嘘の方がいいですか?」
「うれしすぎて、信じらんない・・・」
 力が抜けてきて、呆然とするサンジを見て、ビビはプリンをひとすくいして、サンジの目の前に持ってくる。
「サンジさん、はい。あーん」
「へ?」
 ツルンとプリンがサンジの口を通る。
「おいしい?」
「え、うん」
 サンジの戸惑いの表情がおもしろいのか、ビビは笑う。
「夢じゃないでしょう?」
「えっと、そうだね」
 ビビを見つめてくうち、砂に水が浸みていくようにゆっくりサンジの中にビビの言葉が広がり、うれしくてうれしくてたまらない子供のような顔になった。

「・・・ひゃっほー!」
 奇声を上げ、サンジはスプーンを口にはさんだままのビビを抱き上げる。
「サ、サンジさん?」
 驚くビビにお構いなしに、サンジは甲板に出てくるくる回りだす。抱き上げられたビビはうれしそうな、はずかしそうな顔をしてサンジの腕の中に収まっている。
 仲間達は最初なんだなんだと騒いだが、サンジとビビの顔を見てあきれて元の場所に引っ込んだ。



それから

マジでKISSする5秒前・・・


サンビビ天国さんに投稿しました。

02/11/04 ★ CULT BITTER / キル