ビビ・キッス!
… V …



 それから・・・
 ビビは今までと同じように生活した。たた食事は取らないが、みんなの食事風景を見ながらお茶を飲むようになった。ビビの食料はルフィの胃にいくのでルフィは大喜びである。それとは反対に、サンジは哀しかった。みんなが食べるのを見守るビビを見るのも辛かった。

 サンジはビビが食べれなくなってから、お茶だけは丁寧ていねいに入れて差し出す。
「なにか食べたくなったら、いつでも言ってね」
「ありがとう、サンジさん」
 ビビは確かに食事は取ってなかったが、食事の雰囲気を味わっていた。料理の匂いやもりつけ、みんなとのおしゃべりを楽しんでいた。食べられないなら食事風景など見ない方がいいのではないか、と思ったがその間一人別室にいるのはさみしいことだった。ビビはどんどん白くなっていった。
 そして少しずつビビが食事しないのに慣れていった・・・・・。






「こまっちゃたな」
 近ごろ、ビビはお腹が減るように感じだした。食欲がないのにである。
 のどに渇き感じるのだが、水分を取っても収まらなかった。
 相談はしなかった。
 みんなを心配させてしまうし、どうすることもできないだろうと感じていた。ナミのみかんを1つもらい、食べるのでなくみかんの香りを楽しみながら、「こまっちゃたな」とみかんに愚痴をこぼしていた。

「なにがこまっちゃたの?ビビ」
 ナミがみかんを収穫し終えて、階段に座りこんでるビビのそばにやってきた。
「みかんになんか言うなら、私に言いなさい」
 そういってビビの持ってたみかんを取り、みかんにキスした。
「・・・・・」
 それ見てビビの中で何かがはじけた。
 今までなかった食欲が急にあふれ出し、のどがゴクリとなった。
「どうしたの、ビビ?」
 心配そうにナミはしゃがみ込み、ビビに視線をあわせた。
 目の前のナミのくちびるから目が離せなかった。

「ビビ?」
「・・・ナミさん」
 ビビはナミを抱きしめ、艶に満ちたくちびるで濃厚な口づけをした。

 おやつをもって参上したサンジが、ばっちり見てしまったのは不幸だった・・・。

 甲板には真っ赤な顔で倒れてるビビと、うっとりした顔で倒れてるナミと、真っ青に固まってるサンジの姿があったという・・・。






「・・・どうしたんだ?コイツら」
 チョッパーがベットの中のビビ、ナミ、サンジを順に見ていった。
「知るかよ、甲板で倒れていたんだ」
 ゾロがめんどくさそうに答えた。
「おもしろいな、ビビが真っ赤でサンジは真っ青だ!ナミはピンクか?」
 ルフィはおもしろがって三人を見て笑った。






 まず、サンジが起きた・・・というか夕食の時間になり無理矢理起こされた。しかし精神的ショックが大きかったのか、使い物にならずウソップが手伝い、何とか夕食は終わった。
 次の日の朝、ナミがけだるそうに起きた。
「ビビにキスされたんだけど、すご−−−く気持ちよくて気を失ったみたい」
 と、ナミはうっとりと診察に来たチョッパーに話した。
「う−−−ん」
 チョッパーは考えこんで本を調べこむ。
 ビビはなかなか目覚めなくて、ルフィはビビの顔をパチパチたたくし、サンジはお姫様には目覚めのキスがいいと言い、ウソップは目覚まし時計を作ろうとしていた。

 次の日、ビビは目覚めた。
 すぐさまチョッパーが呼ばれ、ビビはチョッパーに、お腹が減りだしたけど食欲がないこと、のどの渇きのこと、急にナミにキスしたくなったことを話した。どうしてナミにキスしたくなったのかはわからない、と赤くなりながら答えた。
「今はどうだ?お腹減ってる?」
「減ってないです。のどの渇きもなくなったわ」
「背中は?」
「ずきずきする・・・」
 少し顔をしかめた。チョッパーは気を付けて、背中のアザらしきものをそっとさわった。さわったことが刺激になったのか、肩胛骨のあたりに亀裂が走った。
「っあ!」
 ビビは痛みで、背を弓なりにしうつむいた。
「あああああああ・・・!」
 するとビビの背中からバリバリッという音ともに、濡れた黒いコウモリの羽のようなものが出てきた。
 目の前で見たチョッパーは腰をぬかした。
「あ、わあぁあ・・・」
 ビビはその姿勢のまま気を失った。ついでにチョッパーも気を失った。






 ペチッ
「・・・いてえな」
 ペチッペチッ
「いたい・・・」
 ペチッペチッペチッ!
「むちゃくちゃ痛いぞ!!」
 無理矢理チョッパーが目覚めさせられた。
「それは私が言いたいわよ!!」
 チョッパーをはたいていたナミの手は赤かった。
 目の前のビビの羽を見た瞬間、「あ!」と大声を出して部屋を飛び出し、分厚い本をもって帰ってきた。
「もしかしたら・・・」
 次々とページをめくりだした。後ろでナミもハラハラ見守っている。
「やっぱり、『悪魔の実』だな」
 チョッパーが厳粛に言うと、
「えー!ビビちゃん悪魔の実食べたのか!?」
「変な羽だな」
「すげーすげーすんげー!」
「お。お。おれさまでも見たことないぞ!」
 気がつけば一同が部屋に集まっていた。
「うるさい!ビビが目覚めるでしょう!!」
 そういうナミが一番デカイ声だったが・・・。
「ビビが食ったのは『キスキス』の実だろう・・・
食事を取らなくなって、人の生気を食べるようになる。キスをして相手から生気を取る。そのキスはとても甘美で生気を取られた相手は酔いしれるそうだ」
「あ、こないだの私だ!」
「でも、サンジは真っ青だったぞ」
 ルフィの言葉にサンジが、こないだのナミとビビのキスを思い出し、涙を流す。
「でもよ」
 とウソップは問う。
「生気ってなんだよ」
「う−−−ん、エネルギーかな」
「なんか吸血鬼みたいだな」
 ゾロがビビを見て言った。
 確かにコウモリのような羽は吸血鬼のような言葉にぴったりだった。

「・・・わたし、吸血鬼になっちゃったんですか」
 ベットから泣きそうな顔でビビが聞いた。
 みんな気を失ってるだろうと思ってたので驚いた。
 ビビが姿勢を正すと、羽はばたばたと動いた。
「・・・・・」
 シーンとして見守る中、どんどん羽を広げ動がした。
 少しずつビビの体は完全にベットから宙を浮いていた。
 それを呆然とビビもみんなも見ていた。

 するとルフィが一歩動き、ベットの上に浮かんでいるビビの足を抱きしめた。
「かる・・・い」
 その一言で気がついたのか、ビビの体は重力の元に返った。突然だったのでルフィに足をつかまれ動きが取れず、ビビはルフィにしがみついた。
「おまえ、浮いてたな」
 と、目をキラキラさせルフィが聞いた。
「・・・そう、みたいですね」
 ビビは自信なげに答えた。
「だ−−−!いつまでビビちゃんを抱きしめてんだ!!」
 ルフィの腕にいるビビをサンジは奪い取り、自分の腕に抱きよせた。
「ビビちゃん?」
「・・・・・」
 ビビはサンジの腕の中で気絶した。






「びっくりしたんだろうな」
 サンジは気づかいながらビビをベットにうつぶせに寝かす。顔にかかった髪をはらってやり、あたまを撫でた。
「ビビはビビだし」
 ナミはビビの看病にうつる。
「しゃーないな」
 ゾロが部屋を出て、剣のトレーニングにいく。
「羽か・・・羽もいいな」
 ウソップも部屋を出て、新たなる発明に没頭する。
「いってーな」
 ルフィはビビをベットに移したサンジにケリを入れられていた。蹴られたところをさすりながら、魚釣りに戻った。
「だいじょうぶだ」
 と、チョッパーは分厚い本を閉じた。

 だって、ここにはゴムゴムの実を食べたルフィも、ヒトヒトの実を食べたチョッパーもいるんだし、仲間がそばにいるからね。






 その後。
 ビビは羽をいかして、高いところを見回るようになった。
 はじめ羽の出し入れに慣れず、背中の開いた服を着てサンジを悩殺していたが、なんとか羽を自由にしまえるようになった。






 食事の方は・・・

「えーい、よるな、寄るな、よるな!
ビビちゃんが食べていいのは俺だけだ!!」
 サンジは回りの者を蹴散らした。

「ビビちゃん、お腹がすいたらいつでも言って下さい」
 サンジはビビの手を取り話し出した。
「サンジさん・・・」
「俺はコックだし、お腹空かせた人をそのままにできないし、ましてビビちゃんが他のやつとキスしてるのを見るのは絶対!嫌なんです!!」
 食事のことを話すつもりが、いつの間にか愛の告白になっている。
「俺をビビちゃん専用の食料でいさせて下さい」
「・・・ずるいわ」
「え?」
「だって・・・それじゃ、私・・・逃げられないじゃないですか・・・」
 赤い顔をしてビビが答える。
 すると・・・サンジはぎゅっとビビを抱きしめた。

「ずっと一緒にいよう!」



おまけ

■イメージは「りりむ・キッス」。といっても話ちょっと聞いただけなんですが。読んで下さってありがとうございました!

02/11/04 ★ CULT BITTER / キル