旅の途中に立ち寄ったなんて事無い港町。
 ゴーイング・メリー号の各自の自由時間。

「どれにいしょうかしら・・・?」
 砂漠育ちのビビには、南国の果物はみな色鮮やかで奇妙な形をするモノに見えた。その見たことのない果物達を店の人の説明を聞きながら、どれを買おうか悩んでいた。
「これは絶対、おいしいよ!」
 果物のいい香りに誘われたのとお店の人のオススメでの果物を一袋分を買うことにした。たくさん買ったおまけにと、ひとつ別の果物を袋に入れてくれた。
「わぁ、ありがとうございます!」
 ビビはぶんぶん手を振って店を後にした。

 ―――店の奥から女が出てきて、店主に問うた。
「今の客におまけした果物、なんていうんだい?私も見たことないけど」
「オレもしらん」
「・・・・・おい!」
「大丈夫、死なんだろ!」
「その自信はどっから出てくるんだい!!?」
「いや、市場で貰ったんだからホントに大丈夫だと思うぞ」
「そうだといいんだけど」

 そう、まさに『そうだといいんだけど』しかししかし、事は起こるのであった。



ビビ・キッス!



 袋いっぱいの果物を手にビビはゴーイングメリー号に帰ってきた。どうやら一番乗りのようだ。それならと、留守番役にあたったウソップの所に向かい留守番の交代を申し出た。

 誰もいない船は静かで寂しいような、しかし一人という気楽さがあった。
 全部知ってる船の中だが、貰った果物をもちビビは船内を探検しだした。
 ゾロとウソップのいない甲板、ミカン畑にいないナミ、サンジのいないキッチン、何時もの指定席にいないルフィ、逃げ回ってないチョッパ−、誰もいない。たださみしそうに見える。
「早くみんな帰ってくるといいな」
 そういってビビは果物を見る。店の人が「おまけ」と言ってくれた初めて見る果物。誰もいないのに周りをきょろきょろと見渡して、その果物を食べた。王女として育ったビビは立ちながら、その上歩きながらものを食べたことがなかったのだ。イタズラをしてる気分で果物を歩きながら食べてみた。

「・・・・・にがぁ」

 せっかくのおまけはまだ熟してなかったのか余りおいしくなかった。でもかじったからには、とガマンして食べてたビビも半分まででギブアップ。
「なんて名前の果物なんだろ?お前は?」






 買い物からメンバ−が帰ってきて夕闇の中出航。
「なぁーサンジメシまだかーーー!?」
「さっきの街でたらふく食ってただろーが!!!」
 いつもいつも船の食料事情を悪くする船長に怒るラブコックの姿。
「でもサンジのメシ、うめ−んだもん!」
 こういわれると料理人のプライドがくすぐられる。
「まぁもう少し待て。そしたらクソうめ−もん食わせてやっから!」
 そんな光景をクスクス笑いながらビビは、今日買った果物をサンジに手渡す。
「サンジさん、これ、今日のデザ−トにして下さい」
「ビビちゃんありがとう!へぇ」
 袋の果物を受け取りつくづく眺める。袋にはマンゴ−、パパイヤ、ライチ等が入っていた。
「なんだかおもしろそうなんで買っちゃったんです」
 底にある果物を見ながらサンジが笑う。
「ビビちゃん、この果物知ってるの?」
「いいえ?」
 ビビは首をぶんぶんぶって答えた。
「これは果物の王様なんだよ。デザ−トにみんなで食べようね」
 臭いが強烈と言われるドリアンさまだった。



「ナミさ〜ん、ビビちゃ〜んご飯が出来ましたよ〜!クソヤロ−ども、来るならやがれ!!」
 いつもの食事が始まる。それは食うか食われるかの戦いの場でもあった・・・
『どうしたのかしら?なんだか食べたくない・・・』
 ビビはせっかくサンジが用意した食事を前に戸惑っていた。街でも買い物をしただけで、買い食いなどやったことないし、食事もとってない。食べたとすれば果物一つ(それも半分)それなのに食欲がない。

「ビビ、どーした?食わね−んならくれ!!」
 ルフィはビビの分を取ろうと狙う。が手が伸びる前にテ−ブルにナイフが刺さる。
「どこのどいつだ!?あー?レディの分を横取りしようとするバカは!!てめーの分はそこにあるだろーーーが!」
 一発触発の世界。
「あの・・・街で少し食べちゃったから今食欲なくて。すいません」
 ルフィさんどうぞ、と自分の分を差し出す。そしてすまなそうにサンジに謝るビビの姿にサンジはため息をひとつ。
「・・・・・・・・・・しかたねーな。ほらよ」
 苦虫をツブした様なサンジは、テーブルに刺したナイフを抜き取りビビに
「後でお腹空くかもしれないからおにぎりでもつくっとくね」
「ありがとうございます」

「今日のデザ−トはビビちゃんが買ってきてくれたフルーツは外で食うぞ」
 ニヤニヤ笑いのラブコックはひときわ大きな声でデザ−トの紹介をする。『ドリアン』を前にゴーイングメリー号の甲板ではその夜、奇声と共に強烈な臭いがしたという・・・






 次の日もビビの食欲は戻らなかった。
 その次の日も次の日も食べる気がせず「ダイエットしてるから」「ちょっと調子悪くて」と言って小鳥の餌ぐらいしか食事を取ってなかった。それもどう見ても無理して食べてるにしか見えない。

 これにはサンジが落ち込んだ。
 料理人とは料理を作る創作意欲の部分と、作ったものを美味しく食べてもらえる食べた人の表情や空間がうれしいもの。
 ビビの「無理して食べてます」な姿勢はけっこう堪える。キッチンではサンジが頭をかかえていた。
『オレの腕が落ちたのか!?いや他の奴らはなんもいわねーが・・・
食材が悪いのか!??でも前と一緒だし・・・
まさか、ビビちゃんが病気なのでは!!???』

 そう思うといてもたってもいられなくなったサンジはビビを探しにキッチンを出る。ついでに船医の姿も探す。
 しかしビビもチョッパーも一つの所にいた。女部屋からナミの声が聞こえる。



「さー、チョッパー!
なんでビビが食欲ないのか、隅から隅まで見てやって!!」

 怒り爆発のナミの声が女部屋に響く。
「あ、あの・・・大丈夫ですよ、ナミさん。それに私、今日は甲板の掃除の当番だし・・・」
 ナミの怒りを受けて、何とか受け流そうとするビビ。しかしその攻防は怒れる魔女の前に、あっという間に突破される。
「あんたねー、ここ二、三日何も食べてないでしょうが!そんな人に甲板の掃除なんてさせられないわよ!!海に落ちたらどうすんのよ、」
「そうだぞ、ご飯を食べないなんて、生きる幸せの一つを捨ててることだぞ!」
 チョッパーの言葉に、こないだのつまみ食いは許してやろうと思うサンジ。開いた女部屋のドアをノック。トントン。
「そうだよ、ビビちゃん。チョッパーに見てもらった方がいいよ」
 そういうとベットに座り込まされてるビビの顔を両手で包み、ビビの額に自分の額をあわす。
「・・・食欲がないのもあると思うけど、寝不足でもあるんじゃない?顔色も悪いよ。熱はないようだね」
 あまりのMr.プリンスぶりに、沈黙が落ちる・・・
 ビビは目が点だったが、ボ!と音がでるくらいに真っ赤になり
「だ、だいじょうぶですぅ」
 わたわた暴れ出す。
「・・・・・なにやってんだか」
 ナミは私ら邪魔?と目でチョッパーに聞く。チョッパーは「はぁ」と大きなため息。世の中には人の恋路を邪魔するヤツは・・・てなことわざもあるが、場合が場合なので、一言申す。
「ちょっと、サンジ君。それを見て貰うためにチョッパーがここにいるのよ」
 そう言われて、サンジは今自分がとった行動に自分が驚いて、今度はサンジがわたわた暴れ出す。サンジの顔も真っ赤だ。
「な、な、何か飲み物持ってくるねーーー!」
 慌ててサンジは女部屋を出ていった。
「自覚なかったのかしら?」
 あきれたようにナミはつぶやいた。
 チョッパーは今度こそ落ち着いてビビの診察を始めた。


CULT BITTER / キル