影 踏 む ばか り



 ―――飲み過ぎたようだ

 女部屋でナミと飲んできたロビンは甲板に出た。久しぶりに気持ちよく酔ったことが、顔には出ないが楽しくて火照った体を少しさましに来たのだった。
 夜空にはたくさんの星と大きな月が出ている。外はまだ薄寒いのだが、酔った体にはちょうどいい。小さな船の上をゆっくりとふらつくこともなく歩く。礼儀正しい酔っぱらいであることにロビンは笑った。月明かりが甲板にロビンの長身の影を作る。影のひょろ長い体は楽しそうに見えた。

「なにしてるんだ?」
「月光浴よ」
 突然ルフィに声をかけられたのだが、ロビンは驚くことはなかった。
どれほど酔っていても油断すると言うことはない。それが海で生きていく上では当たり前のことだったのだから。

―――この船はちょっとばかり違っているけれど。

「げっこーよく?ってなんだ」
 もぐもぐと何か食べている所を見るとどうやらつまみ食いらしい。
「月の光を浴びること。お日様の下だとひなたぼっこ」
「楽しい?」
「ええ」
 ルフィはロビンの横に並び、ゆっくりと一緒に歩いてみた。船の端から端まで、小さな船だからすぐに着いてしまうけれど、行きつ戻りつ繰り返す。麦わらをかぶった影も楽しそうに見えた。

「船長さん」
「なんだ?」
「手を伸ばして」
「手ぇ?」
「ゴムの手を伸ばして」
「よしっ!」
 船の後方にいたルフィの腕が、船首まであっという間に伸びる。甲板にルフィの長い腕の影が出来る。ルフィの腕にロビンは”手”を生えさせ、クスクス笑って不思議な影を作り出す。
 始めは訳が分からなかったルフィだが、ロビンのうつむいて見ているものに気付くと、ルフィの腕は湾曲を描くように次々と形を作っていく。
 ”悪魔の実”能力者による影絵を見ることが出来たのは、見張りでマストにいるウソップだけだった。

「ロビン、鳥つくってくれよ」
「鳥ね」
 子供のようなルフィのうれしそうな声に、ロビンの無数の”手”が白鳥の羽の影を作り出す。羽ばたくように動き、そのまま飛んでいってしまいそうに揺れる。飛び立とうとする動きから、ロビンの”手”が甲板から一斉に消え去った。

 甲板には白鳥の影は跡形もなく、一気に物足りないような元の世界に戻った。
「え・・・?」
「飛び立ったのよ」
 そういってロビンはルフィに微笑んだ。

 羽ばたいた白鳥の手はマストにちょいと現れると、ウソップの驚く声と共に消えてしまった。


■影踏む許り/影を踏みそうなほど、ひどく接近するさま。

03/04/24 ★ CULT BITTER / キル