HOLIDAY
ビビちゃんが仲間になってまだ間もないころ、ログを溜まるためによった無人島に停泊することになった。街がないのは残念だけど、天気はいいし、少しのんびりする時間はありがたいものだ。 青い空、青い海、白い砂浜。 ああ世界はこんなに美しいのに、船長の胃袋はどうして無限なんだ・・・・・!! 船ではルフィの胃袋と盗み食いと残り少なくなっていく食料の心配に、俺には心休まるときがない。俺はヤロウどもを「食料取ってこい!」とケリ上げた。 一息ついてタバコを吸ってると後ろからビビちゃんが声をかけてきた。 「お疲れのようですね」 「今はあいつらのお守りしなくていいのかと思うとね」 ビビちゃんは困ったように笑った。もっと笑ったらいいのに、そう言いたかった。 ウイスキーピークから日が浅く、その上アルバスタを救う使命がある。だから彼女は、ひとりピンと背を伸ばし前を見る。 「次は何をやりましょう?」 彼女は手持ち無沙汰で困っているようだった。 「やることはないから、ここでゆっくりしなよ」 「でも・・・」 彼女は思案顔で言った。 「私も食料取りに行きましょうか?私が乗り込んでしまったから食料事情が悪くなったんでしょう」 俺は首をブンブン振って答える。 「いやいや、ルフィが大食らいのせいだから、全然!ビビちゃんのせいじゃないよ!」 彼女はこまったなぁと言う顔をする。その顔を見て、俺はいいことを思いついた。 「ビビちゃん、ここすわって」 「?はい」 俺は彼女を少し木陰につれていった。彼女は素直にすわると俺は彼女の膝に頭をのせた。いわゆる膝枕ってやつだ。 「え!?」 俺は下からビビちゃんを見上げて言った。 「俺の枕になって下さい」 彼女のびっくりした顔は、今までのどこか背伸びした表情より自然でかわいらしかった。 「サンジさん!」 「お願いします」 俺は甘えるように頼む。 いろいろ彼女が何か言ってるけど、俺は目を閉じて聞き流した。 このまま立ち上がったらいいのに、俺に気を使ってすわっていてくれるようだ。 強いストレスを受けているようなら、海とか水平線が見えるところかで数時間ボーっとしてるといい、とどこかで読んだことがある。 ビビちゃんはアルバスタのお姫様で、国の危機を知るとバロックワークスに侵入したり、ウイスキーピークでは自分を逃がすための船が目の前で爆破されたのを見てしまったそうだ。その中にはアルバスタからビビちゃんを守っていた人が乗っていたらしい。 バロックワークスのボスの名前を俺たちに言ってしまって、巻き込んだことを気にしすぎている。身も心もボロボロになりながらも戦っているワルキューレ。 でも今は俺たちがいる。 少しは肩の力をぬきなよ、そう言わずにはいられない。 ・・・抱きしめられたらいいのに。 もっと違うかたちで彼女のこわばった心を癒せたらいいのに、と思う。 ボーっとしていた。 少し暑かったけど、ときどき風が吹いて彼女の膝枕でいつの間にかウトウトしていた。 どこからか声が、ちいさな歌声がきこえてきた。 そしてやさしい感触。 きれいな手が俺のあたまを撫でている。その感触にクラクラする。犬猫みたいにあたまを撫でられてるだけなのに、うれしくて涙が出そうだった。 「・・・さん、サンジさん」 目を開けると、ビビちゃんの顔が見えた。 「そろそろ船に戻りましょう」 「うわぁ」 ガバッと起きあがり、まわりを見るとは赤く夕日が見える。気がつけば夕方になっていた。 「ごめん!こんな長いあいだ膝枕させちゃって」 「いいんですよ、サンジさんぐっすり眠ってたし」 本当に気持ちよくて眼を覚まさなかった。眼を覚ましたくなかったかもしれない。 「退屈だったろう?」 「いいえ」 そういって彼女は笑った。 彼女は少しはゆっくりした時間を持てただろうか?いや、彼女より俺のほうが癒されたようだ。 起きあがって、船に帰ろうとする。が、彼女はすわったままだ。 「ビビちゃん、帰ろうよ」 「後で行きます」 「どうして?」 彼女の困った顔。 「あの・・・ずっとすわってたから足がしびれてしまって・・・」 「―――も、申し訳ない!」 「大丈夫ですよ」 いったい何時間、彼女をここにいさせたのか。もしかしたら足の感覚がないのかもしれない。足をさわるなりするのはさすがに紳士としてはできない。 ので・・・ 「いえ、女の子を残しては帰れませんから」 そういうと俺は彼女を抱き上げた。いわゆる花嫁抱きをしてビビちゃんと船に帰っていく。彼女は俺の腕の中で顔を真っ赤にして文句を言ってるが、これも上手に聞き流した。 「お礼に今日の夕食はビビちゃんの好きなもの作るよ!」 今日はビビちゃんのためにおいしいものを作ろう。 俺にやさしい時間をくれたビビちゃんのために。
■よく考えれば船の回り海・・・ゲホゲホ。ワルキューレ/またはワルキュエリ。
02/11/04 ★ CULT BITTER / キル
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