あたたかさの指数



 新しい仲間が増え、ゴーイングメリー号はまたいっそう騒がしくなった。まだ名前のない国を慌ただしく出航し、チョッパーの歓迎とナミの全快をさっそく祝うことになった。

 元気になったナミの威勢のいい声が、久々に船上に響く。みんな、それがうれしくて盛り上がっていく。

 ごちそうを食べたり、ケンカしたり、バカなことをしたり・・・そのひとつひとつにチョッパーは目を輝かせていく。ここにいるものは海賊で、自分もそのひとりなんだと頭上を見上げる。帆布には大きな大きなドクロのマークが見える。ドクター・ヒルルクがチョッパーに教えた『不可能をものともしねェ"信念の象徴"』だ。
 チョッパ−はジョッキーをかかげ、ドクロのマークと乾杯した。



「チョッパー、どうしたの?」
 ナミが静かになったチョッパーの横に座りこんだ。あふれそうな酒の入ったジョッキーを持つナミにチョッパーはあまりいい顔をせず、今日だけだぞ!とクギをさす。
「疲れた?」
「・・・あいつら、仲いいな」
 視線の先にはビビとカルーとサンジがいた。
 カルーは毛布に包まれ、青い髪の王女に説教を受けていた。怒ってるはずなのにビビの顔は心配そうで、「もう寝なさい」「食べ過ぎよ!」と注意している。ビビのそばには金髪のコックが楽しそうに笑っている。

「あんたもあそこに行きたいの?」
「んんん。そうじゃなくて・・・」
「ん?」
 顔をのぞき込んで言葉を待つナミに、なんとか伝えようと言葉を探す。
「なんだか、ここらへんがあったかいんだ」
 胸の辺りを指さす。
「うれしいのとはまた違った感じがして、よくわかんないけどビビがカルーを怒ってるのが、なんでだかいいなーって思うんだ」
 なんでだろうな?と不思議そうに首をひねる。

 ドクター・ヒルルクやドクトリーヌと一緒のときと似てるような気もした。
 この船の仲間になったときとも似てる。
 でも・・・もっともっと柔らかいものだった。

 その様子を見て、ナミは小さな馴鹿を膝の上に抱き上げた。
「な、なんだよ!?」
 驚くチョパーの帽子をポンポンとたたく。
「お、おい、ナミ・・・?」
「まだお礼言ってなかったわね。助けてくれてありがとう、チョッパー」
 そういってナミはきれいに笑った。
「いや、あれはドクトリーヌが・・・」
「ドクトリーヌにも言ってなかったな。ありがとう、ドクトリーヌ」
「・・・こっからじゃ聞こえないよ」
「そうだけど、言いたいの。どうしても」
「うん」

 抱きしめられて暖かいナミの膝の上にいると、その姿はカルーとビビのように、仲良しに見えるかもしれない。そうだったらいいなぁ、とチョッパーは願う。

「あったかい気持ちってふえるのかな?」
「いっぱい、いっぱいふえるわよ」
「これってなんだろう?」
「それは、自分で考えなきゃね」
 そういってチョッパーを見るナミの目は優しい。
 その目が少しだけなつかしいと感じる。まだ会って間もないはずなのに、知ってるようないごごちのよさを不思議に思った。



 少しずつチョッパーはコックリコックリとし、眠たげに目をこする。
 でも。
「眠ってしまいたくない・・・」
「どうして?」
 不思議そうにナミが問い返す。
「これが夢だったら困るから・・・。オレ、せっかく海賊になったのに」
 眠るのがこわい。
 眠い目をこすいながらつぶやく。



 すると。
 バシッ!とチョッパーの頭がブッ叩かれた。
「!?」
 涙目になった目で、チョッパーは叩いたナミを振り返る。

「あのね、チョッパー。
夢にはね、眠ってみる夢と、起きてみる夢があるのよ。
大丈夫。あんたは起きていても夢を見ていられるのよ。
ずっと寝てる気なら、私がブッ飛ばして起こしてあげるわよ」

 自信に満ちた声と魔女の笑み。
 チョッパーは、そんなナミの顔を見てドクトリーヌを思い出した。
 パワフルで、自信に満ちていて、チョッパーが自信のなさそうなことを言うと包丁が飛んできたり・・・。
 力強い魂の声。



「ナミは・・・ドクトリーヌに似てるな」
 チョッパーがうれしそうにそういうと、ナミは憮然と答える。
「・・・私、あそこまですごくないわよ」
「いや、十分すごいぞ!」
「・・・・・アリガト」
 チョッパーにとっては最高の賛辞なのだが、今ひとつふたつみっつ、ナミには伝わっていないようだ。


 "信念の象徴"の旗の下。
 チョッパーの胸のあたたかいものはどんどんふえてく。

 どんどん。


■『あたたかさの指数』とは、植物の分布帯と気温の分布の関係を示すための指数の一つ。
02/12/16 ★ CULT BITTER / キル