冒険に行こう!



 ”偉大なる航路グランドライン ”2番目の島、リトルガーデン。そこには秘境と呼ぶにふさわしい密林の原生林が生い茂っていた。船の進む先からは火山が噴火したような音が轟き、対岸では『密林の王者』と呼ばれる虎でさえ血塗れで倒れている島だった。

「冒険のにおいがするっ!!!」
 密林を見て、ルフィが冒険に出る!と言い出すのはわかっていたが、
「私も一緒に行ってもいい!?」
 密林を見渡していたビビはアラバスタの王女である。国を脅かす存在を知ると、敵組織に侵入する度胸もある王女でもあった。
「・・・じっとしてたらいろいろ考えちゃいそうだし、記録ログがたまるまで気晴らしに」
 大丈夫、カルーもいるから。
 横で言葉にならないくらい驚いてるカルーに楽しそうにと笑いかける。黄色い大きな羽をビビは何度も優しく撫でながら、
 お願い。と頼む。カルーの黒い目はビビを困ったように見つめ、覚悟が決まったのか「クエー!」と一鳴きした。

「よし!行くぞ!!!」
「おおよそで戻ってくるから!」
 意気揚々のルフィに次いで、ビビとカルーも出発したのだった。



 鬱蒼と伸びている木々の為あたりは薄暗い。生い茂る大きな葉の隙間から光がもれている。地面には太い草があたり一面生えていた。ビビは辺りを物珍しそうに見渡し、カルーは草に足を取られぬよう進んでいる。ルフィだけが颯爽と先に先に進んでいた。
「ほら!見ろよ、これっ!」
 ルフィはめずらしいものを見つけるたび、嬉しそうにビビに声をかけた。それは空飛ぶ始祖鳥だったり、アンモナイトだったり、目の前を通り過ぎようとする動物だったり。
「ルフィさん、待って」
「待てねぇ。はやくはやく!」
 カルーから降りてルフィの側に行こうとしたビビだったが、この密林の地に上げ底ブーツは不適応だった。ボリュームのある草に足を取られ、前に進めない。悔しそうにルフィを見て、ビビはまたカルーの背に乗る。

 密林の濃い緑の中で、黄色と青色はとても目立つ。それは船にいても密林にいても同じだとルフィは気付いた。
 最初からルフィにとってビビはおもしろい存在だった。情報を手に入れるため敵の組織に侵入したり、初めはキツイ顔が幼くなってたり、実は王女様だったり、強い敵がいたり。
「ヘンなヤツ」とルフィが言うと、
「ルフィさんこそ変なヤツ」と返ってきた。
「俺のどこがヘンなんだ?」
「”悪魔の実”の能力者で、泳げないのに海賊の船長だったり・・・絶対食べ過ぎよ!ウイスキーピークのコックを何人倒れさせたの?他にもねぇ」
 3千万ベリーの賞金首。ミス・オールサンデーの投げ渡した”永久指針エターナルポース”を『この船の針路をお前が決めるな!』と握り壊したり、七武海の一人クロコダイルを敵とする自分を受け入れてくれたり・・・大「変」なことなのに、「変」化に飛んで、不「変」の意志を持っている。
 真面目に指折り数えるビビを見て、ルフィがおかしそうに笑う。
「シシシ。ヘンか?」
「変よ!」
「お前もヘンだぞ」
「どこが?」
 思ってもなかったらしくビビは憮然とする。その様子をまたおかしそうにルフィが笑う。
「俺について来たところ」
「へ?」
「ナミは来なかったのに、お前は来ただろう」
 笑っているのに、真っ直ぐにビビを見る強い瞳は挑んでいるようだった。どういう意味かよくわからず、ビビは首を傾げる。先に進んでいたルフィがゆっくりビビの近くにやって来た。
 ルフィの手が青い髪に触れかけた時・・・

ドシィン!

 火山の爆破とは違う大きな音が聞こえ、二人の体に大きな振動が伝わる。さっきまで騒がしかった密林は嘘のように静まり返っていた。
「なんだ?」
 音と振動はゆっくりと近づいてくる。カルーはそわそわと落ち着かなくなり体を震わせる。

ドシィン!

「!!!」
「お」
 密林の上空、晴れた大空を背にどーんと現れたのは首長竜。長い長い首と櫂状に変化した四肢を持つ巨大な首長竜は呑気に草を頬張っていた。
「何で陸に”海王類”がいるんだ!?」
「恐竜!!」
「きょうりゅう!?」
 それからルフィの興味はビビから恐竜に、巨人族に移った。



 ―――もしあの時、恐竜が現れなかったら・・・?

03/03/31 ★ CULT BITTER / キル