満天の夜空。
人はこの日に何を願うのだろう。





星 に 願 い を





 七夕を知らないビビのために急遽、ゴーイングメリー号では七夕パーティが開かれることになった。
 お祭り好きは揃っている。そして騒ぐチャンスを狙っている。ルフィ達は笹がないのでナミのミカンの木に短冊や飾りを吊していく。それを不思議そうに見てるビビにナミが説明する。

「一年に一度しか会えないなんてかわいそうですね」
 でも・・・
 一年に一度でも会えるならいいのではないか?と思わずにはいれない。
 私は、みんなと別れたらもう会えないような気がする・・・
 ビビは切なそうに七夕飾りをされたミカンの木を見る。

「だから今日はお祝いよ」
 自分の沈んでいた気持ちががナミによって吹っ切られる。今はそれを考えるときではない、というように。

「そうですね!でもこの短冊に何を書くんですか?」
 受け取った短冊を見てナミに尋ねる。
「これに、願い事を書くのよ」
「願い事・・・」
 そう言うとビビは短冊を見て考え込んでしまう。
「ま、軽く考えなさいよ。ちょっとルフィ!!ミカンは食べるなーーー!!!!」
 ナミはミカンを食べ始めたルフィに飛んでいく。



「願い事、ね・・・」
 サンジは渡された短冊を思いながら料理を作っていた。
『やっぱりオールブルーでしょう』
 大きな鍋をかき回す。
『ん・・・つまみ食いが減りますように。これは神様でも無理か』
 スープの味を確かめ、ニッコリ笑う。どうやらいい出来のようだ。
『ビビちゃんと一緒にいたい・・・は無理だよな』
 はぁ〜とため息。彼女の心にはアルバスタが住んでるから。

「・・・さん、サンジさん?」
 気が付くと隣りにビビが立っていた。
「はいぃぃ?」
 驚いて危うくお玉を落とす。すっかり物思いにくれてたらしい。
「大丈夫ですか?」
「ははは、大丈夫ですよ。ビビちゃんこそ何か用ですか?」
「お水を頂こうと思って」
「オッケー」
 冷凍庫から冷えたグラスを出しに水を注ぐ。
「さぁどうぞ、お姫様」
 優雅な手つきでサンジの手からグラスが渡される。
「・・・ありがとう」
「?どうかした?」
 急に顔を沈ませたビビに、何か変なことを言ったのかとサンジが顔を寄せる。
「いえ『お姫様』と言えば、今日一年に一度会えるんですよね」
「そー今日は七夕だからね。ビビちゃんは願い事書いた?」
「いえ全然」
 苦笑して答える。手に持つ短冊は白紙のままだ。
「せっかく今日会える星に願い事をお願いしてもいいのかと思って・・・」
「でもせっかく会う二人をお祝いしてるわけだし、深く考えない方がいいよ」
「さっきナミさんにもそう言われました。けど・・・」
「別にアラバスタのことを書けって言ってる訳じゃないよ」

「ええ、アラバスタのことはお願いすることじゃありませんから」
 そう微笑むビビが強く、そして痛々しい。


「サンジさんの願い事は?」
「そうだな・・・つまみ食いが減りますように、とか」
 サンジが言った途端ビビが吹き出す。
「サンジさんたら」
 ビビの笑いを見て、この笑顔を見れるのもあと少しかも・・・と不安になる。

「ビビちゃんと一緒にいたい
・・・とか」

 そういうとグラスを持つビビごと抱きしめた。
「サンジさん・・・」

「キミはアルバスタに帰っちゃうんだね」
「・・・ええ、そこが私の国だから」
 ビビがサンジの胸に頭を寄せる。
「王女様だからね・・・」
「でもみんな忘れてしまうわ・・・ずっと会わないでいると忘れてしまうのよ」
「忘れないよ」
「今日の星のお祭りのように一年に一度でも会えるなら・・・」
 それを聞くとサンジはビビの目を見る。

「会えるなら忘れない。」

「・・・・・星の話よ」
 サンジに抱きしめられてた体を放し、ビビはキッチンを出ていこうとする。
「お水、ごちそうさま」
 閉じられた扉はまるで拒絶のように感じる。
「まだ飲んでねーじゃねぇか」
 溶けかけのグラスを見てサンジがつぶやいた。















 キッチンを出てビビは後悔でいっぱいだった。
「私、サンジさんに当たってる・・・」
『一緒にいたい』
 その気持ちだけで嬉しかったのに・・・



 星達から見ればこんな小さな願いでも気付いてくれるだろうか?
もし願いがかなうなら





「さー乾杯よ!!」
 もう出来上がってるナミが何度目かの乾杯をみんなにさせる。
「さぁ、ビビも飲んで飲んで!」
 ナミとビビ以外飲む方には回らず、料理の方に向かっている。ビビはサンジと会うのを少し躊躇ってた分、気は楽だったがアルコールも強い方ではないので、どこまで飲まされるの心配だった。
「ねぇビビ」
 ビビの少しも減ってないグラスにまた酒をつぎ足しながらナミが聞く。
「サンジ君元気ないように見えない?」
「・・・そうですか?」
「アンタも元気ないようだけど、何かあったの?」
 相変わらずカンの鋭い人だな、と苦笑する。そうでなけりゃ航海士にはなれないのかしら?
「ちょっとサンジさんに当たってしまって・・・」
「ほー!ビビが!サンジ君に!当たる!!こりゃめでたい!!」
 そういうと「かんぱーい」と一人で乾杯する。
「・・・何処がめでたいんですか!?」
 ナミを睨み付けるが酔ってかわいい顔を赤く染めてるので迫力もなく、ナミがビビの頬にキスする。
「・・・!」
 突然のナミの行動にビビは驚く。そしてそれを見ていたサンジは思わず「・・・うらやましい」とつぶやく。

「ビビはサンジ君に甘えてるんだな〜と思って」
「・・・誰にも甘えたくありません!」
 ナミに負けじとコップの酒を飲む。
「自分を分かってくれる人がいるなんて、うらやましい〜」
「でも・・・別れは来るわ・・・」
 またナミにお酒を次がれどんどん飲んでいく。酔っていく。

「ねぇ、私達は会えなくなったら終わりになるような仲なの?そうじゃないでしょう。ビビはアルバスタに行く、私達はグランドラインに行く。でも会えなくても仲間よ。だから今日の七夕も祝えるのよ。だってまた会えるんですもの!」

「でも・・・でも・・・ナミさん!」
 そういうとビビはナミに抱きつく。酔っぱらいらしい行動だが、見てるサンジにはほっっんとに羨ましい限りである。

「不安なんです・・・サンジさんはナミさんのこと好きだし、女の人が好きだし・・・」
「それは不安にさせるヤツが悪い!!」
 泣きながらナミのお腹を抱きしめるビビの頭をナミは撫でる。

「サンジ君!」
「はい?ナミさん」
「酔っぱらい、貸してあげるわ」
 そういうとサンジの開いた席に行って今度は料理を食べ出す。

 やってきたはいいがサンジはどうしようか悩む。
「ナミさん・・・でも、でも、サンジさんは私のこと好きじゃないんだと思いますぅ」
 言われてビックリ。そんなことは天地が逆さまになってもあり得ない!
「そんなことないですよ!!」
 思わずビビの元に座り込む。
「だってナミさんには『愛しのナミさん』っていうけど、私は言われません!これならミス・ウエンズディの方がよかったのかしら?」
「そうじゃない、そうじゃない!」
 慌てて否定するがビビの耳には届いてない。
「それに私は仲間未満だし、アルバスタに着いたらみんなと別れなきゃならないし・・・もし離れちゃったらサンジさんいっぱい、いっぱいナンパして子供いっぱい作っちゃうのよ〜〜〜!」
 そういうと今度は泣き出した。後ろで料理を食ってた面々も大笑い。
「ありうる、ありうる」
 とうなずく始末・・・

「ナミさん、部屋貸してね」
 そう言うとビビを抱きしめてサンジは女部屋に行こうとする。
「男になってこい!」
「ヒューヒュー!」

「あほか!酔ってるレディに手出すか!!」
 サンジは怒りながら女部屋に入り込む。しかし理性に自信はなかった。

 抱きしめると小さくやわらかくで、いい匂いがするし、酔って真っ赤な顔に潤んだ目はサンジの理性に危険信号を出さす。
『耐えろ!今日のオレ!!』
 思わず自分を応援するサンジだった。










 女部屋に連れてきたはいいが、いきなり密室。抱きつくビビを離しがたく思う。
「・・・サンジさんは・・・」
 抱きしめてないと聞き取れないような小さな声でビビはつぶやく。
「私のことどう思ってるのかしら・・・?」
「ビビちゃんはオレのことどう思ってる?」
 酔っているのにフェアじゃないと思わずも聞かずにはいられない。でないと彼女は答えてくれそうにないようで・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・すき。だと思います。
でも一緒には居られないんです」

「一緒にいられなくてもこの気持ちは変わらないよ」

「・・・不安なんです。どうして星達は一年も待てたのか・・・」

「相手を思い合ってたらアッという間だったかも知れないぜ。例え離ればなれになってもそう願い続けることによって、会えるよ」

「またサンジさんに会えるかしら?」

「ビビちゃんが忘れない限り会えるさ」
 そういうとサンジはビビにキスをした。まるで約束のように。
 クスクスと笑うビビはサンジの頬にキスを返す。サンジはビビをベットに寝かし瞼にキスする。
「おやすみ、ビビちゃん」
「おやすみなさい、サンジさん」















 ホントならホントなら、こっから別世界になってたかもしれないのに、部屋の外で騒ぐ怪獣達がムードをぶち壊していた!
「おーい!料理ないぞ!!」
「サンジ、肉肉肉!!!」
「今いいところだろうからほっときなさいよ」
「・・・・・」
「ZZZZZ」

 女部屋を出て、怪獣達に対峙する。
「てめーら、オレの世界をぶち壊すんじゃねーーーーーーー!!」
 七夕の宴会は大乱闘で幕をしめた。










お約束 ★

 次の日。ビビはすっきりした笑顔でキッチンに向かった。席に着いてメンバーを見てびっくりする。どの顔もケンカした後のようだ。
「どうしたんですか?」
「何でもないですよ。ビビちゃんは二日酔い大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。昨日はたくさん飲んだみたいで、ほとんど記憶がありませんが」
 ビビのにこやかな笑顔に、サンジは凍り付くが周りは大爆笑!!

「オレ・・・オレ・・・理性を捨てればよかった・・・・・」





「ビビちゃんは短冊に何を書いたの?」
 朝食後サンジが聞く。
「色々考えたんですけど『みんなが笑顔でありますように』って」
 その短冊を見せる。
「ビビ、ちょっといい?」
「はーい」
 ナミに呼ばれビビはキッチンを出ていく。
 昨日のことがあっただけに残念にも思うサンジである。何気なく短冊を見ると裏にも何か書いてある。


みんなにもう一度会えますように」

 この「サ」はオレだと思っていい?ねぇそー思っちゃうよ。
 にやけた顔をどうにかしようと、帰ってくるビビののためにおいしい紅茶を入れるサンジであった。

 え?サンジの願い事ですか?もちろん決まってるでしょう!



「いつかキミと一緒に!」


01/07/23 ★ CULT BITTER / キル