April Fool



 4月1日。
 エイプリル・フール。万寓節。四月馬鹿。
 あなたはだます方?だまされる方?それとも・・・

 だまされてあげる方?




「サンジさんの誕生日って、もしかして3月2日ですか?」
「え、そうだけど・・・なんでわかったの?」
「え!?ホントにそうなんですか?」
「・・・・・」
 一瞬沈黙が落ちる。
「ビビちゃんの誕生日は?」
「サンジさんと似た感じです」
「もしかして、2月2日?」
「ええ」
「・・・・・」
 同時に言った。「「語呂よすぎ!」」二人して大笑いである。

「ホントに、ほんとですか?エイプリル・フールじゃなくて?」
「困ったことに本当!ビビちゃんもそうなの?」
「はい。シャレにならないです」
 シャレで聞いた誕生日は、なんと当たっていた。お互いわかりやすい誕生日だと知った。
 ただ・・・・・今年の誕生日はとっくに過ぎていた。今年のイベントがひとつ減ってしまって、お互い心の中でそっとため息をつく。



「そうだ!」
 サンジが急にうれしそうに言いだした。
「今日、ふたりの誕生日にしよう!」
「?はい?」
 ビビはわけが分からず首を傾げる。そんなビビをかわいいと思いながら、サンジは悪戯っぽく笑う。
「今日は4月1日、エイプリルフールだからね」
「あー!そういうことしますか」
「だって、ビビちゃんの誕生日もう過ぎちゃって、今年は祝えないんて、もったいない!」
「もったいない・・・ですか?」
 子供じゃないんだから、と思いながらも、サンジの楽しい思いつきにクスクス笑いだす。
「じゃあ、ケーキはどうしましょう?」
「俺が作りますよ」
「あら、主賓に作ってもらうなんて、なんだか悪いです」
「ん・・・そうだな。じゃあ、この島のおいしいケーキ屋さんで買おうか」
「名前、入れてもらいましょうね」
「『ビビちゃん&サンジくん、お誕生日おめでとう!』って」
「ろうそくも立てなくっちゃ!」
「ビビちゃんが16で俺が19で・・・ローソク34本でローソクの山になるなぁ」
 楽しそうなサンジとは対照的に、針山のようなケーキを想像してビビは顔を曇らす。
「それならケーキ、二つ買いましょう。2種類食べれますよ」
「えー!今日一緒に祝うだし、いっしょにローソク吹き消したいし、34本立てようよ。

だったらさ、大きなケーキにしよう!ほら、ウエディングケーキみたいなの!」
「・・・結婚式みたいですね」
「初めての共同作業ですとか」
 ウキウキしてきたサンジは幸せそうにビビに言った。

「結婚しようか?」

 突然のサンジからの言葉ににビビの頬がバラ色に変わっていく。
 ・・・・・しかし、サンジの軽い言いようと、今日がエイプリールフールだというのを思い出し、溜息をついた。
「・・・プロポーズみたいですね」
「プロポーズです!」
 勢いプロポーズになってしまったが、サンジとしては本気だ。すっかりその気になっていて、今日がエイプリールフールというのをすっかり、しっかり忘れてしまっていた。
 なにも答えず、ため息をつくビビを見て、サンジは不安になってくる。
「あ、あの・・・返事の方は・・・」
 おそるおそる返事を聞くサンジに、ビビはなんと答えようかと考える。



 どうせ、今日はエイプリールフールだ。
 今日だけ、だまされようか?
 それとも・・・。














「・・・お受けします」














 うつむいて答えたビビの小さな声にサンジは立ち止まる。
 ビビは立ち止まらず、そのまま前にどんどん進んでいく。呆然となるサンジは、後ろ姿のビビに聞いた。
「ホントに?!」

「疑う人はキライです・・・」

 慌ててサンジは後ろからぎゅっとビビを抱きしめた。
「オレ、オレ・・・幸せにしますからね!」
「・・・ありがとうございます」
 耳まで赤くなったビビの小さな声が返ってきた。



 ふたりは手をつなぎ、歩いていく。
 目当てのケーキ屋を通り過ぎてしまって、笑って戻ってきて大きな大きなケーキを買った。もちろんお誕生日用ろうそくも34本。

 帰りは手をつながなかった。
 大きなケーキの入った箱を両手で持つサンジと、両手に花束を持つビビは手をつなげなかったけど、心がつながってるようだった。




 今日はだまされる方が悪い。

 だまされたのは、どちらだったのか?


03/03/11 ★ CULT BITTER / キル