節 分



 ビビの誕生日が終わって次の日の朝。甲板でウソップが紙にあるモノを描いていた。
 チョッパーが近寄ってよく見ると、それはの妖しげな赤い怖い顔の絵。頭には角のある。絵がうまい分、迫力がありすぎて怖いな・・・と少々震えながら見ていると、ウソップは怖い顔の余白の部分を切り始めた。
「なんだ?コレ」
「チョッパーは知らないのか?鬼だよ、鬼」
「おに?」
「だって節分だからな。豆まきだ」
「豆まき・・・というと、船で畑でも作るのか!?」
 それは種まき。
「・・・・・そうだな。それでだな、その豆を買うために家に残った たった一頭の牛を売りに市場に行ったジャックだったが、そこで会った爺がすごい豆の木になるという種と牛を交換してくれっていうんだ」
「牛と豆の木の種じゃずいぶん損じゃないか?」
「そうなんだ。それで・・・」
「・・・ウソップ、節分はどこに行ったの?」
 ウソップとチョッパーのやりとりを何気なく聞いていたナミが、ウソップのホラ話・・・というか『ジャックと豆の木』の話をやめさせた。訳が分からないチョッパーはウソップとナミの顔を交互に見る。訳が分かってない。
「こないだ停泊した島じゃねぇか?」
「拾ってきたら?(ニコ)」
「いやぁ、もうずいぶん離れちまったし」
「泳いでいけばいいじゃない(ニコニコ)」
「ハハハ・・・」
 乾いた笑いで困った汗をかいているウソップと、笑って怒ってるナミはとても対照的だった。

 節分とは季節の分かれめのことで、立春・立夏・立秋・立冬の前日の称、特に立春の前日のこと。古くは立春を一年の始まりとしてたため、大晦日としての性格も持つ。鬼打ち豆をまいて鬼を追い払うなど、邪心や厄災を防ぐ行事が多い。
 ナミの正しい説明を聞いたチョッパーは質問をした。
「・・・で、ジャックは?」
「・・・・・それはウソップに聞いてちょうだい」



 前日のビビの誕生日に続き、今日もお祝い・・・というか季節行事にルフィは大喜び。
「今日もごちそう!」
 そういってつまみ食いにせいが出る。その度にサンジに蹴り倒されているが。
 その様子を見て「懲りない人だな」とビビは感心すること然り。

 夜になり、サンジ特製太巻き寿司を今年の方向に向けて無言で食べる。キッチンでは静かに、モグモグと食べてる音しかしない。それはゴーイングメリー号ではとてもとても珍しいことだった。みんなが一本をモグモグと食べる横で、ルフィだけは次々と食べていく。さすがゴム人間。見かねてサンジが無言でルフィを蹴りつけるが効果がない。

「苦しかったぁ」
「おいしかったです」
「ありがとう!ビビちゃん。さぁもっと召し上がれ」
 サンジは奥に隠していた太巻きの載った大皿をテーブルに載せる。
「まだあんのか!」
「てめぇの分はねぇよ!!」
 すかさず伸びるルフィの手を、サンジは叩きこんだ。



 甲板に出て、豆まきをすることにしたのだが。
「鬼はどうすんだ?」
「ゾロやんない?いいトレーニングになるかもよ」
「俺様特製の鬼のお面だ」
「なんで俺が!」
「鬼は腹巻きしてるしな」
「あら違いますよ、あれは虎皮のパンツですよ」
「ああ、ビビちゃんの口からパンツなんて」
「ゴム人間でもいいんじゃない?悪魔の実だからだし」
「じゃチョッパーもか?」
「お、お、俺も?」
「じゃ、鬼はルフィとチョッパーで決まりだな!」
 ウソップの〆で決定になってしまった。涙目のチョッパーと、笑ってるルフィにウソップの面が渡された。
「大丈夫よ、トニー君」
「強く投げないって」
 女性陣の言葉はやさしく・・・
「やるからには思いっきりやるからな」
「覚悟しろよ」
 男性陣の言葉は遠くかけ離れていた。

「福はぁ内、鬼はぁ外!」

「サンジさん、豆は?」
 各自に豆の入ったマスを渡し終えたサンジは何も持ってない。煙草をくわえてるだけだった。
「俺はやりませんから」
「どうしてですか?」
「なんだがね、食べ物を粗末にしてるような気がするから、出来ないんですよ」
「・・・そう、ですね」
「ああ、ビビちゃん、気にしないで!もちろん拾ってルフィの腹に詰め込んで、その上から水飲ませますから!」
「・・・それって」
「少しは腹が膨れるでショ」
「・・・・・」
 ニッと笑うサンジに、どう答えればいいのかビビにはわからなくて困った顔になった。

「サンジは豆まかないのか?」
「だからだな・・・」
「じゃお前も鬼だ!鬼は外!」
 ルフィの容赦ない豆がサンジに当てられた。
「なにしやがる、クソゴム!、いてぇだろうが!」
「じゃ、ビビも鬼。鬼は・・・」
 ビビに向かってルフィの豆が投げられた・・・ハズだったが、それはサンジが体でブロック。
「ビビちゃんにやるんじゃねえ!!」
 サンジの本気蹴りがルフィを船の後方まで吹き飛ばす。
「サ、サンジさん、やりすぎ・・・」
「じゃぁない!!それに・・・」

 ビビちゃんを外に追い出したくない

 追い出すのは鬼であって、ビビは関係ない。考え過ぎなんだが複雑な気持ちがルフィに当たってしまったことだった。

「ま、ルフィだから大丈夫」
「・・・そうだけど」
「豆まいたら、ビビちゃんも歳の数だけ豆を食べて」
 マスの中の豆をサンジは一粒取り、まだ何か言いかけるビビの口の中に、ちょんと放り込んだ。サンジの人差し指がビビの唇にあたり、静かにと黙らされる。赤くなったビビは口の中に入った豆を仕方なくボリボリと食べた。



「そろそろ御開きにしましょう」
 十分遊んで楽しんで、ナミの言葉に各自、甲板から散っていく。
 結局ビビは豆をまくことはなく終わってしまった。外はまだ寒いが、少し飲んだアルコールと興奮で、風に吹かれていた。
「寒いから早く中に入ってね!」
「風邪引くわよ!」
「その時は任せろ!」
 残ってるビビに一言声をかけて、暖かい部屋に戻っていった。

 甲板に一人残ったビビは豆を一掴みし、海に向かって豆をまいた。
「福は内、鬼は外」



 そして小さな声で。
「福は内・・・ワニは外。
 ・・・・・・絶対、追い払ってやる」

 節分は鬼打ち豆をまいて鬼を追い払うなど、邪心や厄災を防ぐ行事。
 アラバスタの厄災を振り払えるように。
 闇に向かって豆は投げられた。


03/02/03 ★ CULT BITTER / キル